研究課題/領域番号 |
18KK0140
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
斗内 政吉 大阪大学, レーザー科学研究所, 教授 (40207593)
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研究分担者 |
芹田 和則 大阪大学, レーザー科学研究所, 特任研究員 (00748014)
村上 博成 大阪大学, レーザー科学研究所, 准教授 (30219901)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2021-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / ナノカーボン / フェムト秒パルスレーザー / 励起子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ナノカーボン材料や、半導体原子層薄膜などの低次元ナノ構造に起因する特異な励起子やバレー自由度を持つキャリアなどの素励起を媒介とした、局所場超短パルス光・THz波変換機構を明らかにし、その知見を基に新規な光・テラヘルツ機能の開拓を行うことである。本年度は、ライス大学にて作製された、一方向に配向した半導体CNTを用いた光伝導アンテナの作製技術を確立し、キャリア励起によるTHz波放射を観測した。CNTはファンホーブ特異性(VHS)のため、通常の半導体とはことなる特異な状態密度をとる。このバンド構造は、カイラリティ(螺旋度)と呼ばれるCNTの巻き方で決まっており、価電子帯と伝導帯の対応するVHS状態間の電子励起によるシャープな光吸収が起こる。また、クーロン遮蔽効果が弱いために、電子と正孔が対状態にある励起子が室温においても非常に安定であることが知られており、励起子相互作用がその電気的および光学的特性を支配している。我々は純粋な半導体であるカイラリティが(6, 5)であるCNTにオーミックコンタクト特性を示す電極を作製し、ダイポール型光伝導アンテナを作製した。この、光伝導アンテナに波長580nm付近(いわゆるE22と呼ばれるシャープな光吸収帯)のレーザーを照射し、初めて明瞭なTHz放射を観測することに成功した。さらにこの、THz放射強度および同時に流れる光電流の励起レーザー強度依存性を測定した、THz放射はほぼ線形な振る舞いだが、光電流は非線形な応答を示すことを見出した。これは、エキシトンの励起・乖離過程が影響していると考えており、現在解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
18年度には、カイラリティが(6, 5)で配向が一方向に揃った半導体カーボンナノチューブを用い、THz放射および電流計測を行うこととなっていた。この計画を達成するため測定用のナノカーボン材料および2次元原子層材料の作製、およびその接合技術をライス大学に若手研究者を派遣し習得させる計画であった。このような計画に対して、THz波計測と電流計測を行い、明瞭に異なった振る舞いをすることが観測され、博士研究員を約2ヶ月ライス大学に派遣した。当初の予定していたナノカーボン材料の作製のほか、高電界下における非線形なレーザー吸収に関する実験を行うなど、順調に研究は進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の実験で、レーザーを照射し、初めて明瞭なTHz放射を観測することに成功した。さらにこの、THz放射強度および同時に流れる光電流の励起レーザー強度依存性を測定した。その結果、THz放射はほぼ線形な振る舞いだが、光電流は非線形な応答を示すことを見出した。今年度は、さらに詳細な励起波長依存性を測定し、励起波長はエキシトンのエネルギーからからずれたときにTHz放射および光電流がどのような応答となるか検証する。また、エキシトンの生成・乖離、フォノンとの相互作用などを取り込んだ理論計算式と比較することにより、エキシトンダイナミクスを明らかにする。また、今回用いた一方向に揃ったカーボンナノチューブの他に、ランダム配向のカーボンナノチューブを用いた測定を比較実験として行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として、光学部品、結晶基板、電子材料を初年度に200万円購入する予定であったが、6月の地震等の影響により、当初計画から研究内容の変更はないが、実験の順番を少し変更した。当初は、2次元原子層材料のバレー選択的励起を並行して進める予定であったが、地震の影響でレーザーの修理が必要であったこと、およびカーボンナノチューブからのTHz放射計測が予想以上に順調に進んでいることから、2次元原子層材料用計測システムの構築が当初計画より遅れている。そのため、初年度に購入する予定であった物品の購入を2年目に行うこととした。
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