研究課題/領域番号 |
18KK0150
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉村 一良 京都大学, 理学研究科, 教授 (70191640)
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研究分担者 |
那波 和宏 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (10723215)
小林 慎太郎 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 博士研究員 (10771892)
太田 寛人 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (60546985)
道岡 千城 京都大学, 理学研究科, 助教 (70378595)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2023-03-31
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キーワード | 遍歴電子物性 / 磁性 / 超伝導 / フラストレーション効果 / 遷移金属化合物 |
研究実績の概要 |
新たな量子物性を生み出す新物質の創成は、固体物性物理化学の基礎・応用研究の両分野の発展に大きな貢献をもたらし、この研究分野のブレイクスルーへと繋がるものである。 本研究では、フラストレート効果と層状・鎖状構造など低次元性、さらに構造相転移との組み合わせによって、興味ある遍歴電子物性を示す新規の遍歴電子遷移金属物質群を探索・合成し、その新規遍歴電子物性についてのマクロ及びミクロの両面から明らかにし、その実験結果を解析しフィードバックして、遍歴電子クラスター化合物系、エキゾチック超伝導体系や低次元遍歴電子磁性体系などの創成のための固体物性化学的な基盤を確立することを目的とする。海外の優れた研究者と日本の研究の将来を担う若手研究者との有機的な国際共同研究によって機能性化学・物性化学の分野に基礎的・基盤的な貢献をすべく本研究を遂行していく。 今年度は、中国・杭州市・浙江大学のMinghu Fang(方 明虎)教授の研究室に滞在し、エキゾチック超伝導系、二次元遍歴電子磁性系およびトポロジカル電子系の共同研究を行った。その結果、新たな系エキゾチック超伝導体の系として、強結合超伝導体A3T4Sn13系(A=Ca, Sr, La; T=Co, Rh, Ir)について研究を行った。その結果、この系はどの系も5~10K程度の超伝導転移温度を持つ超伝導体であるが、それらの磁場中の電気抵抗測定を行い、この系についてバンド計算を行って比較したところ、超伝導転移温度以上の温度で、トポロジカル電子系と類似の振る舞いをしているらしいことが明らかになってきた。また、1-2-2系の遍歴電子強磁性系・エキゾチック超伝導系であるB(Fe-Co)2Se2 (B=K, Tl, Rb, Cs, Ca, Sr, Ba, La)系についてである。その結果、いくつかの系で単結晶合成に成功した。今後の発展が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、昨年度から新たに発足した国際共同研究強化のためのプロジェクトであり、5年間の研究として計画した。昨年度は最初の年であって、採択されてから半年程度の研究期間しかなく、吉村が中国・杭州市・浙江大学の方明虎教授の研究室に滞在し、共同研究を行った。概ね当初の予定通りの進捗状況であるが、まだ有機的に共同研究が行えているとは言い難い。もちろん、方明虎教授の研究室以外にも香港中文大のSwee K. Goh教授、ウィーン工科大学のHerwig Michor教授、ネール研究所のRafik Ballou教授との共同研究も進行していて、今後、実際に研究室を訪れ、さらに共同研究を強化していく予定であるが、日本の若手研究者もさらに有機的に共同研究に加わり、実質的な国際共同研究を行っていく必要がある。その際、物質探索・合成は主として、Fang教授、Michor教授、太田博士、吉村が主として行い、構造解析を小林博士、那波博士、Ballou博士が担当する。小林博士は主としてX線および中性子線回折実験に基づく構造解析を担当し、那波博士・Ballou博士は中性子を用いた磁性評価を主として行う。また、Goh教授は、高圧下の物性測定の専門家でもあるので、高圧実験によって得られる新規遍歴物性評価についても行う。NMRを用いたミクロな物性評価研究は、主として道岡博士と吉村が行う。本国際共同研究強化プロジェクトでは、海外研究者とマクロおよびミクロ物性に関しての有機的な議論が期待され、今後、4年間をかけ国際共同研究を推進していくが、その先駆けとして、初年度である本年度は順調に滑り出したといえ、さらに、構造解析やマクロ・ミクロな物性評価は、物質探索・合成にフィードバックし、研究目的を達成するために有機的国際共同研究を追求していく。
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今後の研究の推進方策 |
本国際共同研究は、遍歴電子磁性体系やエキゾチック超伝導系、フラストレート・スピン系などの世界的な専門家であるRafik Ballou博士、Herwig Michor教授、Minghu Fang教授、Swee Kuan Goh教授と、物理化学・無機固体化学に根ざした日本の若手研究者である、太田博士(探索・合成)・那波博士(中性子回折・散乱)・小林博士(X線構造解析)を加え、NMRによるミクロな物性評価に秀でた道岡博士が参加し、有機的に国際共同研究を総合的に展開していくものである(吉村)。 このような背景から本申請では以下の項目1~5について研究を行い、フラストレート系および二次元系や構造相転移を伴う系について新たな遍歴電子化合物群を探索・合成し、その物性について詳細に明らかにする。 1. A3T4Sn13系(A=Ca, Sr, La; T=Co, Rh, Ir)における強結合超伝導体、トポロジカル金属状態と構造相転移の関係の解明 2. BCo2(P-As-Ge)2 (B=Ca, Sr, Ba, La)系における二次元遍歴強磁性系の構築 3. A(Fe-Co)2Se2 (A=K, Tl, Rb, Cs, Ca, Sr, Ba, La)系を中心とした二次元遍歴電子系の構築 4. RCo9(Si-Ge)4系の新規遍歴電子磁性 5. 三角格子クラスター磁性体 Li2AMo3O8 (A=In, Sc) 、YMn2関係のフラストレート系物質における遍歴電子物性の構築 実際に本研究は昨年度の中間辺りから始まり、まだ半年程度が経過したところであり、実質的には本年度から本格的に始まるのである。今年度から、全ての共同研究者が有機的に繋がり、共同研究していくことが重要であり、今後4年間をかけて遍歴電子系研究において新規物性を見出し、有機的国際共同研究を推進していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、昨年度から新たに発足した国際共同研究強化のためのプロジェクトであり、5年間の研究として計画した。昨年度は最初の年であって、採択されてから半年程度の研究期間しかなく、吉村が中国・杭州市・浙江大学の方明虎教授の研究室に滞在し、共同研究を行った。研究の進捗状況は概ね当初の予定通りであるが、まだ有機的に共同研究が行えているとは言えず、旅費や物品費の執行が追いつかず、次年度に回すこととした。2019年度は、研究分担者も含めて積極的に海外出張を行い、有機的な国際共同研究を行い予算執行していく予定である。また、2019年度は、本格的な物質合成を行っていき、また、物性測定も高磁場化の測定が必要であると予想され、液体ヘリウムなどの寒剤も多く必要となることが予想されるため、物品費も当初予定していた以上に必要になると考えられる。以上の理由のより、2018年度の予算を繰り越して2019年度に使用していく予定である。
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