研究課題/領域番号 |
18KK0151
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
甲賀 研一郎 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (10315020)
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研究分担者 |
岡本 隆一 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任講師 (10636385)
墨 智成 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (40345955)
望月 建爾 信州大学, 学術研究院繊維学系, 助教 (40734554)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2023-03-31
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キーワード | 疎水効果 / 疎水性相互作用 / 溶媒和 / ミセル / イオン |
研究実績の概要 |
(1)水溶液中の疎水性溶質の溶媒和自由エネルギーに対するイオン添加効果について,特にカチオンサイズ依存性に注目した研究を遂行した.メタンの溶解度は,陽イオン種だけを変化させて見た場合(例: LiCl, NaCl, KCl, CsCl),一般には陽イオンサイズが小さくなるにつれ小さくなる.ところが,ある一定サイズ以下の陽イオンになるとその傾向が逆転する.この未解明問題に取り組んだ.分子動力学シミュレーションおよび自由エネルギー計算を実行し,陽イオン周囲の水和殻の構造を解析し,Li+のような小さなイオンの場合,陽イオンサイズを小さくするとメタン溶解度が増大する原因をほぼ解明するに至った.
(2)昨年度取り組んだ,イオン添加効果を定量化するために用いられるセチェノフ係数を溶液構造を反映する相関関数積分によって与える式の導出をさらに発展させ,一般的な溶媒和熱力学の関係式から出発し,多成分系において溶質分子種の溶解度(溶媒和自由ネルギー)の別の分子種濃度に対する偏導関数を導き,そこから多くの有用な熱力学関係式が導かれることを示した.この研究成果はまだ完成途中であるが,先行研究に用いられてきた溶解度に対する共溶媒効果に関する関係式,近似式,また物理的描像を統一的に理解する指針につながると期待できる.
(3)サンクトペテルブルグ大学のShchekin教授との共同研究であるミセル形成の自由エネルギー理論を発展させた.界面活性剤分子数が一定となる閉じた系においてミセル形成自由エネルギーWを与える解析的な式を導いた.Wは界面活性剤分子数密度およびミセルの凝集数の関数として表現される.こうして得られたWの特性を複数の具体的条件について数値的に例示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の開始から13ヶ月経過後の現時点において,研究計画の複数の課題についての研究が着実に実施されている.2019年4月ロシア・サンクトペテルブルグ大学からShchekin教授ら2名の共同研究者を招へいし,共同研究について実質的な議論を行った.2019年7月には研究代表者・甲賀がロシア・サンクトペテルブルグ大学を訪問し,Shchekin教授らと共同研究を行った.2019年5月および同年8月には,研究代表者・甲賀が米国・コーネル大学を訪問し,Widom教授と研究打ち合わせを行った.また,2019年11月には沖縄で開催された国際学会Okinawa Colloids 2019に参加・発表を行い,その際にもShchekin教授ら2名の共同研究者も来日し,議論し,共同研究を推進した.米国・パデュー大学Ben-Amotz教授とはオンライン会議により,情報交換および議論を継続している.これらを通じて,国際共同研究を順調に進めている. 具体的課題については,水+アルコール系の分子動力学シミュレーションを実行し,濃度ゆらぎを正しく見るために,どの程度のシステムサイズが必要であるかの知見が得られた.今後は解析方法を検討することと同時に長時間計算を行う予定である. 共同研究者である信州大学・望月建爾氏がミセルを含む水溶液系の分子動力学シミュレーションの予備的計算を行い,研究代表者の研究室においても大学院生がシミュレーションを実行できる条件が整った.理論研究については,一般的な溶媒和熱力学の関係式から出発し,多成分系において溶質分子種の溶解度(溶媒和自由ネルギー)の別の分子種濃度に対する偏導関数を導き,そこから多くの有用な熱力学関係式が導かれることを示したが,低濃度領域における溶媒和自由エネルギーの濃度展開式を導くことなど,取り組むべき課題が残されている.
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今後の研究の推進方策 |
課題1.塩水溶液の物性について,疎水性溶質溶解度のイオンサイズ依存性のメカニズムを解明した成果を論文発表する.次に,疎水性相互作用のイオンサイズ依存性を解明する研究を行う.イオンサイズ依存性は疎水性溶質分子の種類によっても異なることが予想される.そのため,疎水性溶質分子としてメタンのような小分子からフラーレンのような巨大分子種について計算を行い,イオンおよび溶質分子サイズ依存性の全体像を明らかにする.加えて,イオン分子間有効相互作用の理論研究をすすめる.大学院生1名がシミュレーションの実行・結果解析を行い,理論研究は共同研究者が行う.
課題2.ミセル形成駆動力の構成要素を定量的に明らかにする.界面活性剤分子および水分子からなるモデル系の分子動力学シミュレーションを行い,ミセルを形成する界面活性剤分子の疎水基部分の溶媒和自由エネルギー,親水基部分の静電エネルギーを評価する方法を確立する.様々なサイズのミセルに対してこれらの要素の評価を行い,各要素のミセルサイズ依存性を明らかにし,ミセル形成自由エネルギーモデルの妥当性を評価する.サンクトペテルブルク大学Shchekinグループと共同で研究を推進する.
課題3.水+アルコールを溶媒とする2成分系の濃度ゆらぎおよび溶質添加による濃度ゆらぎの増大についてその特徴と発現機構を明らかにする研究を推進する.まず,2成分系における濃度ゆらぎを正確に評価する.予備計算から,ナノメートルオーダーの濃度不均一性が存在し,構造ゆらぎの時間スケールも数十ナノ秒の長さであることがわかった.大規模長時間計算は外部機関の大型計算機を利用する.理論モデリングはコーネル大学Widomグループと研究代表者および共同研究者が行う.分子シミュレーションは大学院生が行う.パデュー大学Ben-Amotzグループにおいては実験を実施し,理論・実験融合研究を推進する.
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次年度使用額が生じた理由 |
海外共同研究者の所属研究機関(パデュー大学)出張を予定していたが,研究進捗状況を考慮し,次年度以降に延期したこと及び研究補助のための人件費が当初の予想より低く抑えられたため次年度以降に有効利用することとしたため,次年度使用額が生じた.
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