研究課題/領域番号 |
18KK0156
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 高史 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20222226)
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研究分担者 |
大洞 光司 大阪大学, 工学研究科, 助教 (10631202)
吉川 佳広 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (30373294)
北岸 宏亮 同志社大学, 理工学部, 准教授 (60448090)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2021-03-31
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キーワード | ポルフィリン / 金属ポルフィリン / 自己集積化 / ヘムタンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究では、酸素の活性化や運搬をつかさどるヘムタンパク質に含まれるヘム分子(鉄ポルフィリン)に着目し、金属ポルフィリン誘導体を基盤とする触媒およびデバイスの創製について、日本の研究グループとフランスの研究グループの各々の分子設計、合成、評価技術を結集して実施する。特に、ポルフィリン分子の骨格変換やシクロデキストリン等を用いた周辺の精密な分子環境設計を実施し、高活性な分子中心として機能する金属ポルフィリン類縁体の新規触媒としての利用および、金属ポルフィリン類縁体の集積化に基づくエネルギー・電子移動デバイスの開発を行う。将来的には、分子レベルでの合理的な設計に基づく太陽電池や燃料電子の電極、人工光合成デバイスとして展開可能な基盤技術の獲得をめざす。 初年度は、日本側の研究者とフランス側の共同研究者と研究討議を行い、それぞれが得意とするポルフィリン・ヘムタンパク質の素材合成を実施した。研究討議のために研究代表者である林はフランスのストラスブールとレンヌで活動する共同研究者をそれぞれ訪問し、直接研究討議を行い今後の方針を立てた。またフランス側が得意とするストラップ部位を導入したポルフィリンについて、日本側が得意とする水中でシクロデキストリンと複合化するための新たなデザインを導入した新規ストラップポルフィリン分子を設計し、合成に着手した。また水素発生や二酸化炭素に活性を示す新しいポルフィリノイド金属錯体を調製し、電極触媒としての利用を実施した。デバイスに応用するための自己集積型ヘムタンパク質やポルフィリンとフラーレンから成るロタキサン分子の設計と調製を実施した。また新規な機能性分子の基板表面での集積構造評価を実施した。今後は、それぞれが調製または合成した素材となる系を、様々な測定法と組み合わせて詳細に評価し、触媒やデバイスへの応用を精力的に展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、研究代表者である林が、ストラスブールのフランスのストラスブール大学Jean Weiss教授およびレンヌ第1大学Bernard Boitrel教授をそれぞれ訪問した。Weiss教授とは人工光合成や電子移動の系の開発を目指した新しいポルフィリン誘導体やヘムタンパク質について議論を行い、その基本方針を決定した。Boitrel教授とは、酸素の還元触媒として機能する金属ポルフィリン誘導体について議論を行い、今後の研究の詳細な計画を行なった。日本側では、特に素材合成に注力し、同志社大学の北岸准教授はシクロデキストリンと複合化可能なストラップ型金属ポルフィリンの合成とその酸素結合能の評価を実施し、ストラップ部位が酸素の結合に有意な効果があることを確認した。大阪大学の大洞助教はヘムタンパク質の自己集積体の調製を実施し、剛直ならせん構造を有する集積体や環状集積体の構築を実施した。また集積体内の鉄ポルフィリンの一部を光増感剤として機能する亜鉛ポルフィリンに置換した系では、タンパク質間光誘起電子移動が長距離で効率的に起こることを確認した。産業技術総合研究所の吉川主任研究員は、 新規な機能性分子の基板表面での構造の詳細評価を実施した。また林のグループではコバルトコリンやコバルトビピリコロールといった新規ポルフィリノイド化合物を合成し、それぞれ電極上で効率的、選択的な水素発生触媒及び二酸化炭素還元触媒として機能することを見出した。またWeiss教授と精力的に協力し新たなポルフィリンロタキサン化合物を合成し、フラーレンと組み合わせることで、構造がメカニカルにロックされた特異な分子内における、構造依存型の高速電子移動反応を評価した。上記の通り、今後デバイスや触媒に展開しうる素材の合成と調製を実施し、計画どおり順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後もこれまで通りの研究グループで、以下の研究項目を国際共同研究課題として遂行する。 (1)ストラップ型金属ポルフィリンのシクロデキストリンダイマーによるカプセル化と、得られた複合体を用いた水中で選択的に酸素4電子還元が可能なシトクロムcオキシダーゼモデルの構築: 本年度合成した複合体の詳細な酸素結合能とその作用機序を評価し、実際に電極に担持し、酸素還元反応を電気化学的に評価し、高活性な触媒を探索する。(2)エネルギー・電子移動材料を指向した新しい集積型ストラップ金属ポルフィリノイドの開発: エネルギー移動デバイスをめざしたストラップ構造体修飾亜鉛ポルフィリンとその集積体を構築し、蛍光測定や走査型プローブ顕微鏡を駆使して、光と電子材料を組み合わせたデバイス創製および光物性の評価を図る。 (3)光合成に学ぶ人工光捕集系の分子デザインとその構築:本年度調製したヘムタンパク質集積体の創製を実施し 、光エネルギーの効率的捕捉を実施し、触媒分子と組みわせ、化学エネルギーへのスムーズな変換をめざす。以上の研究課題を通じて、高機能触媒の開発、電子移動 材料の構築、光捕集系の創製を達成目標とする。本年度は、お互いの研究討議とそれぞれが得意とするポルフィリン・ヘムタンパク質の素材合成を主に行った。来年度以降は、素材合成を続けながら、日仏間での積極的な交流を実質的に行いながら研究を進める。具体的には、研究代表者、分担者及びグループに所属する学生それぞれがストラスブール大学またはレンヌ第一大学を訪問し、進捗を報告し 、成果について議論と論文作成の協議および実質的な共同研究を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度途中での採択であったため、準備期間が短く、年度内に共同研究先を研究代表者以外の研究者が訪問することができなかった。代替として、メール等でやり取りを行い、基本的な相手先との議論はできている。必要に応じて次年度以降、各自のタイミングで相手先を訪問する予定である。また同様に準備期間が短かったため、試薬や物品の調達等が遅れており、次年度以降に使用する予定である。
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