研究課題/領域番号 |
18KK0170
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
矢守 航 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (90638363)
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研究分担者 |
寺島 一郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40211388)
大政 謙次 高崎健康福祉大学, 農学部, 教授 (70109908)
杉浦 大輔 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (50713913)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | 水利用効率 / 光合成 / サーモグラフィ / クロロフィル蛍光 |
研究実績の概要 |
本申請研究では、節水条件において高い生産性を示す植物の創成を目指す。その第一段階として、クロロフィル蛍光と葉温の可視化技術を組み合わせることによって、光合成速度と蒸散速度を同時評価し、植物の水利用効率の可視化を試みている。昨年度は、光化学系Ⅱにおける電子伝達の実効量子収率 (ΦPSⅡ) を蛍光画像より可視化する二次元クロロフィル蛍光装置を構築した。本年度は、光照射の最適化を行った。従来法では、個葉に光が均一に照射されることを前提とした計測法であり、植物個体全体を対象とした光照射法は確立されていない。そこで、複数台の高輝度LED光源装置を購入し、植物個体全体に均一に光照射可能なシステムを構築した。これによって、光合成活性の定性・定量解析が可能となる。 また、植物の水利用効率の遺伝的改良に向けた基盤研究を行った。作物が灌漑水の節減条件下で高い生産性を示すためには、植物自身の水分吸収能力や吸水量あたりの光合成能力 (つまり、水利用効率)を高めることが必要である。PATROL1遺伝子をシロイヌナズナにおいて過剰発現すると、節水条件において、水利用効率を高く保ったまま、植物生産性が向上することを新たに明らかにした。 水利用効率に影響を及ぼす要因の一つとして、細胞間隙から葉緑体にかけてCO2の通りにくさ(つまり、葉肉抵抗)も挙げることができる。オーストラリア国立大学のJohn Evans教授との国際共同研究によって、高性能レーザー分光装置を用いて、葉肉抵抗を評価した。その結果、葉肉抵抗、光合成速度と蒸散速度の変動する光に対する挙動を世界で初めて捉え、それらの結果をまとめて論文発表した(Sakoda et al. 2021 Plant Physiology)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クロロフィル蛍光と葉温の可視化技術を組み合わせることによって、光合成速度と蒸散速度を同時評価し、植物の水利用効率の可視化を試みている。これまでに、光合成電子伝達のパラメータを蛍光画像より可視化する二次元クロロフィル蛍光装置を構築した。光合成の可視化装置について、従来法では、個葉に光が均一に照射されることを前提とした計測法であり、植物個体全体を対象とした光照射法は確立されていない。そこで、本年度は、複数台の高輝度LED光源装置を購入し、植物個体全体に均一に光照射可能なシステムを構築した。この照射システムを用いることによって、光合成電子伝達のパラメータを計測するために必要な光量を植物材料に照射できることも確認した。これによって、光合成活性の定性・定量解析が可能となる。 また、植物の水利用効率の遺伝的改良に向けた基盤研究を行った。これまでに、シロイヌナズナにおいて、気孔開閉の制御に関与すると報告されているPATROL1の水利用効率に関する機能を解析した。シロイヌナズナにおいて、PATROL1遺伝子を欠損すると、節水条件において植物成長が低下する一方で、PATROL1遺伝子を過剰発現すると、水利用効率を高く保ったまま、植物生産性が向上することを新たに明らかにした。 細胞間隙から葉緑体にかけてCO2の通りにくさ(つまり、葉肉抵抗)も水利用効率に影響を及ぼす。国際共同研究によって、葉肉抵抗、光合成速度と蒸散速度の変動する光に対する挙動を世界で初めて捉え、それらの結果をまとめて論文発表した(Sakoda et al. 2021 Plant Physiology)。また、光合成の生化学的および数理モデルを用いて光合成の制限要因を解析することで、変動光環境における光合成は気孔を通して大気からCO2を取り込む過程や、葉緑体における電子伝達の活性に強く制限される可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
本申請研究では、節水条件において高い生産性を示す植物の創成を目指す。2021年度は引き続き、水利用効率の可視化装置の構築に向け、クロロフィル蛍光測定装置から光合成に関する各パラメータの可視画像を自動で出力するようにプログラムを修正し、大規模スクリーニングにも適用できるように改変する。特に、これまでの先行研究では、植物個体を対象としたときに生じる環境光の不均一な照射を考慮した計測法は行われていないため、今後、植物個体の3次元的な構造を考慮し、植物個体における不均一な環境光を考慮した蛍光パラメータの画像計測解析法の開発を行っていく予定である。また、赤外線サーモグラフィによる可視画像の出力も行えるようにプログラムを作製する。可視化装置の構築が終われば、変異体リソースの迅速スクリーニングにより、水利用効率の向上に関する新規遺伝子の探索を開始する。 また、植物の水利用効率の遺伝的改良に向けた基盤研究も行う。これまでに水利用効率向上の具体例として、気孔開閉の制御に関与すると報告されているPATROL1の水利用効率に関する機能を解明してきた。しかし、PATROL1遺伝子の組織特異性を解析すると、葉身だけではなく、根系においても発現していることが明らかになってきた。そこで、今後、根でのPATROL1タンパク質の局在を解析する。乾燥や塩ストレスをかけたときに、根で発現するPATROL1の短期的な応答と、長期的な局在・動態の変化を共焦点蛍光顕微鏡により解析する。加えて、野生型と、PATROL1過剰発現体、あるいはpatrol1変異体との間で接ぎ木植物を作成し、地上部と地下部とでPATROL1の発現量が異なる植物を得る。これらの植物で同様の実験を行い、PATROL1の部位特異的な環境応答への寄与を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
市販の測定装置を組み合わせて植物の水利用効率の可視化装置の構築を目指したが、可視画像の出力に不具合が生じたため、市販の測定装置の購入を断念した。そこで、2年前から研究計画を見直して、新規で赤外線サーモグラフィを購入した。現在、当研究グループの所有するクロロフィル蛍光測定装置に、新規で購入した赤外線サーモグラフィを連結することによって、植物の水利用効率の可視化に挑んでいる。次年度は、クロロフィル蛍光測定装置と赤外線サーモグラフィを連結するのに必要なパーツやソフト開発に必要な消耗品を購入する予定である。
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