研究課題/領域番号 |
18KK0171
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
千葉 壮太郎 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (70754521)
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研究分担者 |
田中 利治 名古屋大学, 生命農学研究科, 特任教授 (30227152)
大井 崇生 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (60752219)
佐藤 育男 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (70743102)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | イネオレンジ葉ファイトプラズマ / 発生分布 / 拡散メカニズム |
研究実績の概要 |
ファイトプラズマは農業上重要な絶対寄生病原菌のグループであり、人工的に培養できないため病原/伝播性機構について分子レベルで解明された例は限られる。地球温暖化と気候変動による寒冷感受性昆虫の活動地域が広がるにつれて、熱帯・亜熱帯地域で発生するファイトプラズマ関連病害が今後北上すると考えられる。本研究では、イネオレンジ葉ファイトプラズマ(ROLP)の発生状況を把握するために、東南アジア諸国の広域に渡って病害発生調査や媒介生物調査を実施する。合わせて分子系統学的解析を行ない、ROLPの起源を初めて明らかにするとともに、感染域拡大のメカニズムに迫る。 これまでに収集したデータを基に分子系統解析を行ない、カンボジア、タイ、フィリピン、ベトナム産ROLPの遺伝的多様性が明らかにされた。また、その分布からタイを中心とした地域にROLPの起源があると考察され、カンボジアの一部およびフィリピン、中国、ベトナムに発生するROLPは遺伝学的に単一の集団で構成されることが明らかになった。 急速に感染拡大するROLPの伝搬性について、フィリピン、カンボジアにおいて新規媒介昆虫を同定し、また、その他にも潜在的に媒介し得る昆虫種も見つかった。さらに、ROLPの植物感染・病徴発現様式の解析では、師部組織特異的なROLPの集積を蛍光染色および走査型電子顕微鏡で詳細に可視化し、また、周辺細胞には感染に伴うデンプン粒様構造物の異常蓄積が観察され、生育不良や黄褐色化等の病徴発現との関連が示唆された。2020年度は、各海外拠点でのロックダウンおよび海外渡航の制限により、計画していた調査の多くが実施できていないが、各研究室保管の試料を用いて予備試験(RT-PCR,LAMP,高純度ゲノムDNA・RNA精製,追加DAN配列解析)を進めて来た。この機会に、これまでの成果を纏めて2報の論文(オープンアクセス)を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
海外渡航制限による本邦参画者の現地調査および実験の遂行が行えず、また、現地のロックダウンの影響による実験や植物・昆虫の維持の中止等を受け、実質的な共同研究の遂行は困難を極めた。現地研究協力者(カンボジア王立農業大学、フィリピン国際稲研究所)とのオンライン会議により、現地において冷凍保管サンプルや固定試料を用いた実験は実施したものの、当初計画していた実地調査やサンプル採取はイネの生育ステージとタイミングが合わず、すべて中止となった。日本側の研究代表者、共同研究者においては、手持ちの保存サンプルを用いて、主に本来予定していた研究項目の予備検討を実施した。これについては、生きた病原体を持ち込んでの研究は本邦で行なわず現地で実施する計画であるため(本邦未発生病害のため植物防疫上の措置として)やむを得ないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
全体:カンボジアとフィリピンの研究拠点においては共同研究者による調査および実験内容について相談し、実施可能な項目について進めていく。 ゲノム/RNAseq解析:ROLP感染し病徴を示した植物サンプル(圃場採取)のDNA、RNAは品質が悪くNGS解析の事前品質検査で不適合となる。したがって、研究室内で人工的に虫媒接種した植物で且つ病徴発現前の感染植物サンプルを調製する必要がある。また、ファイトプラズマを含む細菌叢のDNAを選択的に精製し、次世代シーケンサーに供し、完全長ゲノムの決定を試みる。 多様性解析/発生調査:渡航制限の解除に加えて、安全に研究活動を行なえる環境が整い次第、東南アジア各国での実地調査の再開を考えている。インドネシアの協力者による実地調査の実施は合意に至り、現地の状況が改善し次第、病害発生調査とDNAサンプルの取得を始める。既に、インドネシア協力者にPCR機を送る手筈を整えている。 伝搬解析:継続的にイネから虫媒伝搬を繰り返すことでROLPの維持体制を確立し、昆虫が保毒するまでの吸汁時間や伝搬可能な期間等の調査を再度始める。また、調査圃場においてはROLP保毒昆虫が他にも認められていることから、可能であればこれらの伝搬試験も実施する。 組織学的解析:カンボジア或いはフィリピン拠点において、継続的虫媒伝搬によるROLPの研究室内維持が再度可能になり次第、現地で植物および昆虫試料の樹脂包埋を行ない、名古屋大学で切片作成および電子顕微鏡観察を集中的に行う。走査型電子顕微鏡で作成切片内を広範囲に観察できる環境が整ったことから、感染植物に加えて媒介昆虫内のROLP局在も解析可能になると考えられる。また、感染植物内の生理学的変化についても、染色(デンプン粒様構造物)による顕鏡解析やメタボローム解析(質量分析)も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子解析費:過去に精製した核酸サンプルの遺伝型や精製RNAの品質に問題があり、次世代シーケンサーの外注費(DNA, RNA)を執行していない。実験の再セットアップや新規サンプル採集等の条件が整い次第、実施する予定である。 旅費:渡航自粛により、海外での病害調査を延期した。渡航が継続的に困難にある現状を踏まえ、未使用の旅費を海外の協力研究者(インドネシア)への業務委託費として執行する予定としたい。 全体:研究期間の延長も視野に入れて、予算執行も適宜調整したい。
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