研究実績の概要 |
【本研究の目的】祖先野生ソバ(Fagopyrum esculentum ssp. ancestrale)は雲南省を中心とする中国南部にのみ自生し、栽培ソバ(F. esculentum ssp. esculentum)と交配可能な重要な植物遺伝資源である。しかし世界のどこにも野生ソバ遺伝資源は構築されておらず、中国の急速な発展とともにその遺伝資源は失われようとしている。そこで本研究では共同研究先の雲南農業大学(YAU)において野生ソバを中心としたソバ遺伝資源の維持管理システムを構築する。また、遺伝資源に含まれる野生および栽培ソバの全ゲノム配列決定から、ソバの栽培化に関与した育種上重要な遺伝子群を網羅的に同定し、最終的にソバの栽培化プロセスを解明する。 【本年度の結果概要】これまでに最終的に得られた全ゲノム配列(栽培ソバ, 57個体; 野生ソバ, 47個体)をリファレンス配列にマッピングし、栽培ソバの起原地および人為選択のターゲットとなったゲノム領域を確認した。リファレンス配列にはこれまでに我々が整備した自殖ソバ(PL4号品種)および自殖性野生ソバ(F. homotropicum)の染色体レベルのゲノム配列を利用した。この結果、チベット南東部の野生種集団が栽培種と最も近縁であることを確認した。さらに、栽培種の第一染色体には明瞭な人為選抜の痕跡がみられ、チベット南東部の集団から選抜された特定の遺伝子型が世界中の栽培ソバに広がっていることが明らかとなった。これは、ただ単に栽培種とチベット南東部の祖先野生種集団のゲノム全体の塩基配列の相同性が高いだけではなく、人為選抜の対象となった遺伝子型を持つ集団がチベット南東部に存在したことを示す。そこで本研究では、栽培ソバの起原としてチベット南東部の集団が関与したと結論づけた。
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