研究課題/領域番号 |
18KK0173
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
森 直樹 神戸大学, 農学研究科, 教授 (60230075)
|
研究分担者 |
大田 正次 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (80176891) [辞退]
竹中 祥太朗 龍谷大学, 農学部, 講師 (20757736)
丹野 研一 龍谷大学, 文学部, 准教授 (10419864)
|
研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2024-03-31
|
キーワード | 野生コムギ / 遺伝資源 / 遺伝的多様性 / 自然集団 / 疑似自然集団 / 栽培化 |
研究実績の概要 |
コムギは、約1万年前に肥沃な三日月地帯の北部で栽培化された。栽培化起源地であるトルコ南部に自生する祖先野生種はこの地域の多様な環境に適応しており、集団内・集団間で非常に高い多様性をもつことがわかってきた。しかし、これらの野生コムギ集団は近年拡大する人為的環境破壊によって消失の危機にある。本研究では、集団内に眠る遺伝的多様性の持続的・発展的な利用基盤を確立するため、自然集団から任意抽出して作出した「疑似自然集団群」を整備することを主目的とする。また、これらの野生コムギ集団内の遺伝的多様性を適応的形質と中立的DNA変異の両面から調査し、変異の種類とその集団内頻度を解明する。そして、コムギ栽培化の初期に人為選抜の対象となった自然集団の遺伝的構成を推定する。 本研究では期間全体を通じて以下の目標を置いて計画を進めている。1)自然集団内の変異を反映した疑似自然集団群の作出、2)適応形質と中立的DNA変異の両面からみた集団内および集団間の遺伝的構成の解明、3)栽培化に寄与した祖先集団の特定、4)栽培化に寄与した集団の遺伝的特徴の解明。上記の研究計画の1)から推進するため、2018年の10月に野生4倍性コムギ(野生二粒系コムギおよび野生チモフェービ系コムギの両種を含む)について疑似自然集団群の作出を開始した。これまでの現地調査で採集しチュクロワ大学で保存中のサンプルから、トルコ南部におけるこれらの分布域のほぼ全域をカバーする5つの自然集団を選び、それぞれの集団から23-64個体(221個体)を任意抽出し、栽培を試みたが現地の天候不良により収穫に至らなかった。そこで、2019年の10月に新たに2集団を加えて7つの集団288個体を播種した。2020年の初夏に自殖種子を収穫し、2021年に次の集団を播種する計画であったが、新型コロナウイルスの世界的大流行により現在計画が中断している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では、消失の危機にある栽培化起源地の野生コムギ集団に眠る遺伝的多様性を持続的・発展的に利用するため、野生2倍性コムギと野生4倍性コムギについて自然集団の多様性を反映させた擬似自然集団の育成とその利用・解析に取り組んでいる。 これまでに自然集団で採集し共同研究先のチュクロワ大学に保存中の採集サンプルから、現地の地理的条件なども考慮し11の野生2倍性コムギ集団と18の野生4倍性コムギの集団を選定した。当初の計画通り、まず野生4倍性コムギの疑似自然集団群を作成することとした。平成30年(2018年)の10月に、上記の集団のうち野生4倍性コムギの5集団(221個体)を選び、それぞれ23~64の小穂を任意抽出し、小穂ごとに1粒の穎果を選び識別番号をつけて個体識別を行った。これらの植物を平成30年12月にチュクロワ大学構内の実験圃場に定植した。これらを平成31年4月から5月にかけて自家受粉させ、6月にその種子を収穫する予定であったが、現地の状況が悪く収穫に至らなかった。そのため、2019年の9月(森、大田、竹中)と同年11月(森、大田)の2回にわたってトルコへ渡航し、上記の5集団に新たに2集団を加えて計7集団から288個体を任意抽出して11月に再度播種した。これらを現地で栽培し、2020年初夏に自殖種子やDNA抽出用の葉の組織を採集する予定であったが、2019年から新型コロナウイルス感染症の世界的感染の拡大により、2020年、2021年、2022年はトルコへの渡航を断念せざるを得なかった。そのため、現地における植物材料の育成と収穫、形質調査などの研究が停滞している。2019年の秋に播種した野生コムギの遺伝資源はウエブによる研究打ち合わせなどによる交渉の結果、共同研究先の協力により2020年の春に何とか収穫することができたが、その後の現地での作業ができず共同研究先に保管中である。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では、これまでのジーンバンクでは実現できなかった自然集団内の遺伝的多様性を反映したコムギ遺伝資源の永続的利用基盤の構築を1つの大きな柱としている。我々がこれまでにトルコ国内で実施したフィールド調査では集団内の多様性を重視し、それぞれの調査集団ごとに多くの個体を無作為に採集してきた。本研究では、これらのサンプルから集団ごとに複数の個体をランダムに抽出しそれらを単粒系統法にて自殖することにより純系統化し、自然集団の遺伝的変異を反映しつつ永続的な維持・利用が可能な「疑似自然集団群」を作成する。 そのため採集サンプルを年度ごとに現地で秋に播種し、以下の3点を進める計画であった。1)開花前に硫酸紙の交配用袋をかけて自殖させる。2)DNAレベルにおける多様性を調査するため育成中の個体ごとに生葉を0.5グラムずつ採取し凍結保存する。3)登熟後にこれらを個体ごとに収穫し穂の形態的特徴や穂ごとの穎果数や重量などを記録して冷蔵保存する。しかし、上記のように、2019年に現地で播種した7集団288個体は、2020年の初夏に現地の共同研究先の協力により収穫まで至ったが、その後の作業が進められず現地で保管されている状況である。今年度は、計画の1年延長が認められたため、トルコへの渡航が再開できれば収穫された穂の形質調査と脱穀を行って疑似自然集団の系統としての保存を開始する。さらに、残りの野生コムギの自然集団サンプルから次の種子セットを任意抽出し播種・栽培・収穫を行って疑似自然集団の充実を図る。 しかし、不幸にも本年2月にトルコ南部を震源とする大地震が起きた。この震災の被災地域には本研究の共同研究先であるアダナが含まれており、現在も現地の安全性が確保できておらず渡航が困難な状況が続いている。今年が最終年度となるが、さらなる研究期間の延長も視野に入れつつ現地の状況に臨機応変に対応しながら進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大により本研究の研究代表者(森)をはじめ研究分担者(竹中、丹野)、研究協力者(大田)の何れも共同研究先のトルコに渡航することができなかったため。 2023年度における新型コロナウイルスの世界的感染の状況は好転することが期待されるが、今年2月にトルコ南部で発生した大震災によって共同研究先のアダナも被災しており滞在の安全が確保できていない。今後の状況を注視し、もしも可能であればトルコへの渡航を実施する。このための旅費および現地における植物の育成・収穫資材購入および作業など補助のための謝金に使用する予定である。また一方で、本邦で可能な解析なども視野に入れて研究を計画・遂行する。
|