研究課題/領域番号 |
18KK0186
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
若月 利之 島根大学, その他部局等, 名誉教授 (50127156)
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研究分担者 |
村田 周祐 鳥取大学, 地域学部, 教授 (00634221)
渡邊 芳倫 福島大学, 食農学類, 准教授 (30548855)
林 昌平 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (20725593)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | 微生物群集 / Sawah system evolution / Kebbi rice revolution / 内発的水田開発 / 農民組織 / Sawah technology / 水田稲作の在地化 / Paddy yield gap |
研究実績の概要 |
水田仮説1を現地及び文献調査とGoogle earth衛星画像解析結果を統合して、「水田プラットフォームの進化」の視点で、アフリカ(SSA) 30ヶ国の水田の進化段階の評価を行った。進化の評価軸は、「畔の質と均平化度と間断灌漑の容易さ」として、7段階に区分した。0段階:陸稲、1段階:低湿地稲、2段階:低地畝立稲、3段階:低地小区画水田、4段階:低地標準水田、5段階:低地トラクター耕作水田、6段階:高機能水田。4段階以上でYield Gapは解消され、間断灌漑が容易な6段階で集約的持続性の高い未来型水田となる。 稲作はヒマラヤ山麓の諸河川流域で1―1.5万年前にアジア稲の栽培化として開始された。 一方、栽培環境の水田プラットフォーム化は5000-7000年遅れて開始された。栽培品種と水田プラットフォームは各地域に伝播しながら「共進化」してきた。しかし、「品種」の伝播に比べ「水田」の伝播には「技術の在地化」という文化社会的要素が関わるので時間がかかる。SSAにはマダガスカル島に約1000年前、タンザニアには数百年前、西アフリカには100年前に伝播した。アフリカ稲は約3000年まえにニジェール川流域で栽培化されたが水田の進化段階は0-3の段階に留まる稲作が大部分である。 このため品種改良に焦点を当てた過去50年の稲作振興のインパクトは限定的であった。しかし、2010年以降、農民の自力による進化段階4以上の水田プラットフォームの開発がナイジェリアKebbi州で実現したことを現地調査によって確認した。又、タンザニアにおいてはスクマ人による自力水田開発が数十万haの規模で拡大したことをGoogle earth画像で確認した。これらの内発的水田開発地はEutric Gleysols, Vertisols, Planosols, Fluvisols等の土壌型の分布域と重なることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の当初計画はCOVID19パンデミックのため、ガーナとナイジェリアでの現地調査は断念した。2020年1―3月にナイジェリアNCAMの現地研究協力者がKebbi州とNiger州の調査サイトの約150地点から収集した1200点の水田土壌サンプルの日本への搬送と理化学性分析も、パンデミックのためにできなかった。同様に関連する、農村社会学的調査、作物学的調査、微生物学的調査もできなかった。 当初の研究計画はパンデミックにより断念したが、予定していなかった以下の様な成果が得られた。即ち、本研究メンバーの村田は、令和2年度より国際共同研究強化(A)「西アフリカ稲作革命にみる農民の生活知―内発的灌漑水田開発の確立を目指す超学際研究」をスタートさせた。さらに、SSA 30ケ国の水田プラットフォームの進化段階の予備的評価がこれまでの現地調査や文献調査に2010-2020年に撮影された衛星画像の解析を総合評価することにより実施できた。これによって評価された国別の水田進化段階のレベルがFAOSTATの国別平均収量に対応することを見出した。さらに、水田進化、収量向上、農業生産性向上は、マラリヤ等の感染症のコントロールに繋がり、公衆衛生学分野との連携の道筋も見えてきた。又、ナイジェリアのKebbi以外にも、タンザニアのスクマ人がビクトリア湖岸のスクマランドを起点に、タンザニア全土で内発的水田開発を2010年以降数十万haの規模で拡大していることを「発見」した。内発的水田開発が拡大している地域の土壌型には共通の特色があり、FAO-UnescoのSoil Map等と照合することでSSA諸国別の水田開発ポテンシャル面積が推定可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
Kebbi州における過去10年の水田進化段階の変化をニジェール川の上流域のSokoto州、下流側のNiger州やKwara州と対比しながら農民による自力水田開発がどのように進行したかを定量的に評価する。タンザニアのスクマ人のリードする内発的な水田開発の進行をKebbi州と比較する。ナイジェリアNCAMチームが実施しているKebbi州方式の内発的水田開発を全国展開する活動をサポートする。ガーナのSRIチームのSawah Technology普及活動をサポートする。AfricaRiceがBenin, Togo,Liberia,SierraLeone,BurkinaFasoで実施中のSawahTechnology(smart valley approach)の普及実績を評価する。水田仮説2の実証のため「アフリカの水田稲作の推進による地球温暖化防止ポテンシャルの評価」を行う。具体的には、水田土壌による炭素隔離量の評価をKebbi州とNiger州の実証モデル水田で行う。又、SSAの諸国別の水田開発ポテンシャル面積の評価により国別の水田稲作による食糧増産ポテンシャルと温暖化防止ポテンシャルを評価する。 西アフリカにおいて、農民らが水稲作を在地化させている過程をより詳細に調査すべく、令和2年度より国際共同研究強化(A)「西アフリカ稲作革命にみる農民の生活知―内発的灌漑水田開発の確立を目指す超学際研究」をスタートさせた。コロナの状況次第ではあるが、来年度以降にガーナ・ナイジェリアでの長期の現地調査を予定している。 現地とのインターネットを介した通信による遠隔調査や、Google earthを用いた衛星画像解析により、水田進化段階0-7のそれぞれの稲作プラットフォームにおける収量の制限要因を特定する。2019-20年度に採取した土壌を用いて微生物群集の調査や現地状況との関連の解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19のためガーナとナイジェリアへの渡航と現地で採集した土壌試料の日本への輸送ができなかった。又、既に採集済みの土壌試料の物理化学微生物分析もできなかったことから次年度度使用額が生じた。 今後は以下の活動に使用予定である。ガーナとナイジェリアの共同研究者とon-lineで打ちわせしながら、農民による自力水田開発がどのように進行したかを定量的に評価する。BidaとKebbi州のモデル水田土壌による炭素隔離量の評価行う。2019-20年度に採取した土壌の物理・化学・微生物学的分析を行う。SSAの諸国別の水田開発ポテンシャル面積の評価により国別の水田稲作による食糧増産ポテンシャルと温暖化防止ポテンシャルを評価する。
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備考 |
若月利之,アフリカの水田稲作の発展総括とアフリカにおける内発的な持続可能な水田開発によるマラリヤ感染制御のシナリオ,「稲作とマラリヤ~農業から見る“蚊”」所収、9-26頁, 及び44-58頁, 2020年12月 https://drive.google.com/file/d/1itELd_7pxh06BDoez2YThEqZM--D-WcA/view
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