研究課題/領域番号 |
18KK0187
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
佐藤 周之 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (90403873)
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研究分担者 |
上野 和広 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (60560167)
長谷川 雄基 香川高等専門学校, 建設環境工学科, 助教 (70797092)
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研究期間 (年度) |
2019-02-07 – 2021-03-31
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キーワード | ベトナム社会主義共和国 / 農業水利施設 / ストックマネジメント / コンクリート品質 / 非破壊試験 / 初期欠陥 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,ベトナムを対象に,農業水利施設のコンクリートの品質評価を行い,農業水利施設の機能不全の原因究明を行うとともに,材料学的な見地から施工・維持管理手法の提案を行うものである。初年度となる2018年度は,年度末近くの追加採択決定であったため,予算配分等も遅くなってしまい,研究代表者と分担者が一堂に集まる機会を設けることはできなかったが,メール会議を中心として,研究の全体像の把握と各々の分担内容,現地調査の事前打合せについての議論を重ねた。3月14日から研究代表者が,現地カウンターパートであるVinh大学のDr.Longとの間で,研究活動に関する打合せを行い,次年度の4月,6月に現地調査を遂行する段取りを完了させた。また,現地調査で使用する各種試験機材の段階的な移送を開始することができた。これにより,次年度は早々に現地調査を実施することが可能となり,調査後の結果分析および分析結果に基づく現地施設の早期機能低下の原因究明に集中的に取り組むことができることとなった。 一方,本研究課題では,現地の施設で生じている機能不全の原因を特定するのみならず,将来的な長寿命化工法の適用によるストックマネジメント導入に向けた基礎データを取得することを目的としている。長寿命化工法として検討しているのは,表面含浸材とポリマーセメントモルタルを併用した表面被覆工法であり,今年度は,日本国内にて同工法の適用性に関する基礎実験を進めた。具体的には,表面被覆工法の適用において検証が不可欠となる,既設躯体と被覆材との接着性評価の指標である表層引張強度について基礎データの収集と,ひび割れ充填性能に関する野外実験によるデータの蓄積を進めた。これらの基礎実験で得られた結果は,次年度以降に関連する学協会で成果発表していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
社会主義国であるベトナムにおいては,カウンターパートとの事前の調整がなければ円滑な調査研究の遂行は困難である。本年度は,研究代表者である佐藤が継続的に渡航し,Vinh大学の工学科学科長でもあるDr.Longと実験遂行に関する計画の詰めを進めてきた。同時に,これまでに構築してきたベトナム国内の現地政府との連携関係をさらに強固なものとし,共同研究の具体を明確にすることができた。一方,国内の研究分担者とも資機材の準備や各々の具体的研究計画のブラッシュアップを進めることができた。交付内定通知(平成31年2月12日)からの始動であったが,とくに次年度に集中して現地調査を進める準備を終えることができた。 研究代表者である佐藤は,国内の海外農業開発コンサルタンツ協会の海外技術支援に係る委員会委員であり,関連するコンサルタント企業と密に連携を取っており,予定通りNghe An省内のODAを利用した農業水利コンクリート構造物の設計図書などの入手を開始している。これは,農業水利施設のコンクリート品質の評価において前提となる,設計・施工に関する設計図書を,設計や施工管理に携わった日本の建設コンサルタント企業に問い合わせ,施工状況の聞き取りや使用材料,配合設計,施工方法,品質管理に係るデータの収集を行うものである。同時に,現地政府との調査の許可などについての打合せも進めており,2019年4月にも再度確認等を行う予定である。これらの情報・データをもとに,次年度は,現地で実際に生じているコンクリートの変状が,どのような原因に起因するものかを特定する作業を開始する。 本年度の現地渡航は研究代表者である佐藤のみであったが,着実に研究遂行に必要な調整を進めることができ,次年度は直ちに現地調査を開始できることから,年度初の計画からみるとやや遅れているが,初年度終了時点では順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度,現地調査に関する各種調整や試験機材の準備を完了しており,次年度は研究計画に則り,活動を本格化させる。具体的には,調査対象地であるNghe An省およびBinh Tuan省のコンクリート製農業水利施設において,原位置でのコンクリート品質調査を進める。本研究では,各種の非破壊・局部破壊試験により,供用中の農業水利施設の原位置におけるコンクリート品質の調査を行うが,品質調査にあたり重要になるのが表層部分のコンクリートの品質評価である。なぜなら,コンクリートの長期に渡る耐久性に大きく影響を及ぼすのは表面から数mmの領域(表層部)だからである。一般に,通常の環境下で供用されるコンクリートの表層品質が経年変化で大きく劣化することは少なく,表層部の品質は施工や養生に大きく影響を受ける。したがって,現地試験により既存施設の表層コンクリート品質を評価することで,当該施設の施工管理状況を確認することが可能となる。 一方,既存施設の使用材料,配合設計,施工方法,品質管理に係る設計データの収集は継続して行い,現地調査の結果と組合せることで,ベトナムにおけるコンクリート製農業水利施設の機能低下の原因を検討する。 以上に加えて,現地の実構造物から採取したコンクリートコアを持ち帰り,日本国内にて室内実験により詳細なコンクリートの品質(圧縮強度,弾性係数,透水・透気係数,等)評価を行う。現地から採取したコアと各種条件で作製した供試体の品質評価結果を比較することで,設計図書や現地試験から推定した機能低下の主要な因子を裏付けるデータを収集する。コアの採取においては,施工の良否が顕著に表れる箇所(打継ぎ部等)を対象とし,コアの透水透気係数や密度をもとに品質評価を行う。このようにして得られた情報を踏まえ,最終年度の取りまとめに向けた研究者間での議論を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,初年度となる2018年度の交付内定通知が,平成31年2月12日と遅かったためである。計画をしていた備品の一部は,交渉を試みたが当該年度内の納品ができなかったことから,2019年度初に発注をすることとした。2018年度に計画をしていた現地調査・実験ならびに打合せ旅費についても,大部分が使用できなかった。たとえば研究代表者である佐藤は,本研究課題に関する打合せをDr.LongとVinh大学にて2018年3月に実施したが,科研内定前に出張手続きを終えていたため,その旅費も既に本科研の旅費では支払いができなかった。しかし,本年度予算を次年度に利用することにより,当初2018年度に予定していた調査・実験内容をすべて2019年度に速度を上げて集中することで,2019年度末には当初計画通りの目標に達成できるよう,既に調整を終えている。具体的には,ベトナムへの渡航回数を増やすこと,研究分担者を追加すること(岡山大学助教 珠玖氏),さらにコンクリート工学の専門家であり,農業水利分野の権威でもある青山咸康 京都大学名誉教授に研究協力者として,現地調査などへのご協力を頂くこと,などの対応策を既に講じている。
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