研究課題/領域番号 |
18KK0194
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
尾瀬 農之 北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (80380525)
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研究分担者 |
齋藤 徹 広島市立大学, 情報科学研究科, 助教 (80747494)
塚本 卓 北海道大学, 先端生命科学研究院, 助教 (30744271)
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研究期間 (年度) |
2019-02-07 – 2022-03-31
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キーワード | アンモニア |
研究実績の概要 |
核酸やアミノ酸等の窒素化合物を代謝する過程においては,アミンのプロトタイプであるアンモニアが発生する。その反応性のために様々な細胞毒性を引き起こすアンモニアは,代謝や輸送をおこなう上で体内で注意して取り扱われなければならない。血液中に誤って放出されたアンモニアは,脳血液関門を容易に通過し脳障害をも引き起こす。陸上動物はふんだんに水を使用できないため,爬虫類・鳥類では尿酸として,両生類・哺乳類では尿素としてアンモニアを排出する系を備えている。これら排出回路を含め,アンモニアを扱う酵素には特別な設計がなされているおり,これの破綻は病気につながる。例えば,カルバモイルリン酸合成酵素(CPS),シチジン3リン酸合成酵素(CTS),グルタミン依存型アミドトランスフェラーゼ(Gat)を始めとし,アンモニアを反応中間体として利用する酵素は,求核性の高いアミンであるアンモニアが外部(細胞質)に漏れないよう,活性部位間がトンネルで結ばれている。トンネル内でアンモニアがどのように輸送されているかは,非常に興味深いトピックである。疎水性トンネルではアンモニアのまま輸送されていると予測される。また,親水性トンネルではプロトン化されていると予想されるが,アミンの性質を使用し,プロトン化と脱プロトン化を繰り返しながら輸送されているかもしれない。いずれにしても,X線結晶解析では水分子とアンモニア分子の違いを見分けることができないため,実験科学はデッドエンドになっていた。本提案では中性子線回折の利用方法をさらに進歩させ,窒素原子の持つ特徴を活かした構造生物学へと拡張する。アンモニアの分子内トンネルを使用した輸送機構は古細菌,真正細菌,真核生物に普遍的に見られる現象であるが,分子メカニズムの詳細は謎のままである。とりわけ,輸送に必要な水との協調作用を知る上では水分子と明確に区別する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中性子線回折に供するため,結晶巨大化を試みてきた。GatCABに関しては,従来の結晶成長法(マクロ/ミクロシーディング,バッチ法,アガロースゲルを使用したゲル中での成長を狙った方法)のいずれにおいても,効果が見られなかった。PEG型ブロックポリマーを2%で使用した際に一辺が2mmを越える巨大結晶まで成長し,再現性も極めて高かった。トンネル内にアンモニアを発生させるため,基質L-glutamineを高濃度で用いた。その際,アミノ基の重水素置換を行うため,軽水素のL-glutamineを重水中でできるだけ置換した。 成長させた結晶は,共同研究者Andreas Ostermann博士の手により,独ミュンヘン郊外ガルヒンクの原子炉MLZ(FRM II)にてデータ測定をおこなった。GatCAB結晶は,これまで中性子測定された結晶の中で,最大の単位胞(a=77.19, b=88.22, c=183.4A )を持つ。分解能は3.0Aまでの回折が得られたが,結晶のマウントに不備があったため測定途中で結晶が乾燥し,データの完全性が60%しかない。しかし,技術的には回折測定に必要な全ての問題を克服しているため,ビームタイム依存的に構造解析できると考えている。ここまでの結晶成長・中性子回折に関する内容は,論文化して発表した(Li, L. et al. Acta Cryst. F75, 193-196 (2019))。さらに,結晶性を高めるため,新たにキャピラリー内で結晶成長を試している。この方法では,成長速度をコントロールできることや,成長後の結晶をハンドリングする必要がないため,ダメージなく回折測定に持ち込むことができる。すなわち,効率よい回折スクリーニングおよびデータ本測定が可能になると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在結晶巨大化に成功しているポリマーを使用して中性子回折レベルにまで成長させる。PEGブロックポリマーの結晶成長に対する寄与を明らかにすることも目的の一つである。合成ポリマーの専門家である共同研究者,韓国浦項工科大学校のKim博士と共同研究を進める。Kim博士は特にブロックポリマーの合成・分析が得意である。Kim博士の研究室において,結晶成長パラメータ検討(エンタルピーdeltaH測定を含む),ヒステリシスなど物性解析や新規ポリマーの提案・合成をおこなう。 現在,GatCAに関してはルーチン的に分解能3.0オングストロームまでの中性子線回折データをもたらす結晶成長が可能である。ドイツ・ガーヒンクに位置するミュンヘン工科大学の実験原子炉MLZ(FRM II)を使用した中性子線回折実験がメインであったが,中性子回折測定のためのマシンタイム不足が律速となっているため,米オークリッジの装置など,その他の施設も積極的に使用する。日本の東海村J-PARCにある蛋白質中性子回折計では,GatCABの結晶格子の大きさを考えるとデータ測定ができないが,本番の測定(FRMII, オークリッジ)において効率よくデータ収集をおこなうために結晶の中性子線回折能の評価に使用する。保有する実験室におけるX線回折能との相関を調べることも重要であると考えている 。また,アンモニアをGatCABのトンネル中の疎水的な領域に導入するため,tRNAを共存させてゲート(Glu125)を開ける工夫も検討する。GatCABのC末端412–475 領域がX線構造で見える場合と見えない場合があり,結晶化条件に2-methyl-2,4-pentanediolを加えると見えることがわかった。QM/MM計算は斎藤博士がエッセンにおいて進める。その他の蛋白質の調製・結晶巨大化は塚本博士と協力して進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度追加採択のため,実際に交付されたのは2019年2月であったため。翌年度の研究に使用する。
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