研究課題/領域番号 |
18KK0197
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
塚崎 智也 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (80436716)
|
研究分担者 |
塩田 拓也 宮崎大学, テニュアトラック推進機構, 准教授 (20819304)
西山 賢一 岩手大学, 農学部, 教授 (80291334)
|
研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2021-03-31
|
キーワード | 大腸菌 |
研究実績の概要 |
本研究では病原性大腸菌等の細菌の膜タンパク質形成過程を解明すべく研究を進めている。大腸菌内膜へのタンパク質膜挿入には糖脂質MPIaseと膜タンパク質YidCが重要な役割を担う。大腸菌YidCを詳細に議論するため,結晶構造解析により以前よりも高い分解能で主要なドメインの構造全てを明らかとした。MIPaseは3種のアセチル化アミノ糖が連なった生体内物質であるが,その連なり部分を最小限にしたMPIaseを化学合成し,膜挿入活性を測定したところ,野生型MPIaseよりも弱いもの膜挿入活性を保っていた。さらに,MPIaseやYidCを再構成したプロテオリポソームを用いた解析によって,MPIaseは膜挿入初期過程で機能し,その後YidCに基質が受け渡されて膜挿入が完了するというモデルを提唱した。また,生体内のMPIase合成にはCdsAやYnbBが関わることも見出した。大腸菌の外膜には多くのβバレル型膜タンパク質が存在し,このタンパク質の形成には外膜タンパク質複合体であるBAM複合体が関与する。BAM複合体はBamA, B, C, D, Eの5つのタンパク質から構成されている。近年その立体構造が報告されたものの,各サブユニットの役割等は不明なままである。EMM アセンブリーアッセイという独自に開発したin vitroの再構成実験系を用いて,各サブユニットの役割の同定を進めている。これまでに,BamCはBAM複合体から基質タンパク質を送り出す役割を担っていることを解明した。さらに,in vivo 部位特異的光架橋法により生細胞内でのBamC分子全体の相互作用マップを作製し,BamCのC末端ドメインがBamAの細胞表層に露出している部分と相互作用していることを明らかにした。また,BAM複合体の機能を阻害するペプチド断片を数種決定し,作用機構を国際共同研究によって解析するための準備を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に研究が進行した結果,研究発表のところで示したように査読付き原著論文を発表した。研究実績の概要に記載したように病原性大腸菌等の細菌の膜タンパク質形成過程を解明すべく研究を着実に進めた。本研究の基盤となる国際共同研究の準備を行い,次年度に海外共同研究先の機器で詳細なデータを取得する。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度の研究成果により,大腸菌内膜への膜タンパク質の組込にはMPIaseとYidCが機能的に相互作用することを強く示している。科学合成できるサイズの小さいMPIase (mini-MPIase) を用いることで,YidCとの相互作用解析をより詳細に解析することが可能であると考えられる。mini-MPIaseとYidCを再構成したプロテオリポソームを用いて機能的相互作用解析を行う。同時に,MPIaseとYidCとの相互作用部位の探索も行う。より詳細に相互作用を明らかとするためにYidCとmini-MPIaseとの共結晶化も進める。CdsA/YnbBはMPIase生合成の最初の反応を触媒し,その後ある膜構成成分が関わることでMPIase生合成中間体が生成することを明らかとした。その因子を探索したところYncLが候補遺伝子となった。今後は,YncLの変異株を構築しMPIase生合成に及ぼす影響を調べ,未だ不明なMPIaseの生合成経路を同定していく。大腸菌外膜タンパク質形成過程については,EMMアセンブリーアッセイによりBAM複合体のサブユニットの機能解析を進めるとともに,昨年度得られたペプチド断片の阻害機構を詳細に解析していく。ペプチド断片の影響に関しては,国際共同研究者であるオーストラリア,Monash大学のShen博士のもとで,中性子反射率法によりペプチド断片が惹起するBAM複合体の立体構造変化を検出する。現在,放射光施設のビームタイムの申請を行っており,仕様の許可がでれば,直ちに共同研究先に向かい実験を開始する。また,非天然アミノ酸を用いた光架橋実験により,ペプチド断片の結合部位を同定する。未だ明確な役割がわかっていないBamB, BamDについては各種変異体を作成し,機能解析や部位特異的in vivo光架橋実験などを進めることで機能を明らかとしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本実験計画では、タンパク質の精製と測定が主な実験手法である。特にタンパク質の精製過程に使用する界面活性剤などの金額が高価である。本年度は、予定よりも測定の予備実験である条件検討に多くの時間を費やしたため、タンパク質の精製の回数が予定より減少したため、次年度使用額を生じた。
|