研究課題
申請者はメダカを用いた研究でfoxl3(転写因子)が生殖細胞の性のスイッチ遺伝子であることを明らかにした。foxl3が欠損したメスメダカは、生殖細胞を取り巻く環境がメス、つまり身体はメスで卵巣を作るにも関わらず、生殖細胞は精子に分化することがわかった。このことはfoxl3は精子形成を抑制することで生殖細胞の性のスイッチを制御していること示している。foxl3が具体的にどのような因子を制御することで性のスイッチを制御しているのか明らかにするために、foxl3の機能を欠損した生殖細胞と野生型の生殖細胞で遺伝子発現差解析を行ったところ、染色体動態に関わる因子が多数同定された。また、組織学的な観察により減数分裂に入るまでのシスト型生殖細胞の分裂回数がオスよりもメスで多いこと、さらには減数分裂期には核小体のサイズがメスで顕著に大きくなることを見出した。以上のことからfoxl3は染色体や核小体動態をダイナミックに変化させることで、生殖細胞の性のスイッチとして働いているという仮説をたてた。そこで本研究ではライブイメージングにより染色体や核小体動態のオスとメスの違いを明らかにすることを目的とし、染色体動態の専門家であるCollege de FranceのJean-Rene Huynh博士と共同研究を行う。高解像度ライブイメージング構築のためにいくつかの顕微鏡システムや器官培養装置を用いて、撮影条件を検討した。またJean-Rene Huynh博士の研究室に3週間滞在し、ショウジョウバエで確立されたライブイメージング法について学んだ。その結果、マイクロ流路デバイスを用いて培養液を循環させ、光毒性の小さいスピニングディスク型共焦点システムを用いたところ、精巣組織を24時間に渡り核内の動態が追跡できる解像度で撮影に成功した。
2: おおむね順調に進展している
ライブイメージングのための最適な顕微鏡システムと器官培養法を決定できたため、おおむね順調に研究は進展している。ただ、今までに確立した方法では、精巣組織内の細胞分裂を観察することができなかったため、今後は培養液の組成を変えることで、配偶子形成が最適にすすむ培養条件を探る必要がある。
今後は、染色体や核小体を可視化できるトランスジェニックメダカを作製し、これらをサンプルとして用いて、生殖細胞の性決定が起きる有糸分裂期からその性差が顕著となる減数分裂前期までをライブイメージング行う予定である。有糸分裂期から減数分裂前期へと移行すると生殖細胞内の染色体の配置がダイナミックに変化する。テロメア領域は核膜の一箇所に集合し、セントロメアは核小体にクラスタリングすることが知られ、それらのことは相同染色体の対合に重要であることがわかっている。そこでセントロメアはCENP-A, テロメアはTERF1, 核小体はFIBRILLARINと蛍光タンパク質を融合させることとで可視化させる予定である。また減数分裂期の進行がモニターできるようにSYCP1と蛍光タンパク質を融合させて光らせるトランスジェニックメダカの作製も予定している。
当該年度はライブイメージング構築のために、どのような顕微鏡システムを用いるのが最適か、予備的な実験を進めてきた。その結果、スピニングディスク型共焦点顕微鏡システムを用いることが最もライブイメージングに適していることがわかった。そこでそのシステム導入のために、一部の資金を残し、次年度の予算と合わせて購入を進めていくこととした。
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Developmental Biology
巻: 445 ページ: 80-89
doi.org/10.1016/j.ydbio.2018.10.019
Nature Ecology & Evolution
巻: 3 ページ: 845-852