研究課題
本年度は新型コロナウィルス感染予防対策のため海外渡航が一切実施できなかった。そこで、これまでに得られた関連データを解析し、以下の3つの研究課題の論文化を中心に研究を進めた。ヤマカガシ属内におけるヒキガエル毒依存からホタル毒依存への進化過程の詳細を解明するために、より精密な分子系統解析を進めていたが、その過程において、これまでイツウロコヤマカガシと見なされていた種の中に隠蔽種が存在することが明らかになった。形態計測も合わせて行い、四川省に分布する個体群をチフンヤマカガシ(Rhabdophis chiwen)として新種記載した。本種はホタル毒依存に最も特殊化した種として認められることとなった。ヤマカガシ属の祖先種において、どのようにしてヒキガエルからホタルへの毒源の移行が起こったのかを解明することを目的に、至近要因に関与したと推測される餌認知のための化学物質の特定を試みた。これらの餌動物が共通して持っている毒成分であるブファジエノライドが、餌の移行の橋渡しになっていると仮定し、ヤマカガシがブファジエノライドを認知するかどうかを行動実験によって検証した。実験結果はこの仮説を支持せず、ブファジエノライド以外の化学物質が餌の移行に関わっていることが示唆された。ヤマカガシの頸腺毒に含まれるブファジエノライドの組成は個体間や個体群間で異なることがわかっている。この変異が、毒の由来となっているヒキガエルの皮膚毒の変異をどれくらい反映しているかを調べるため。日本全国のヒキガエルの皮膚毒成分を比較した。その結果、毒成分組成は東日本と西日本とで大きく異なることがわかった。さらに、特定の地域だけでみられる成分もあることが示された。これらの変異とヤマカガシ頸腺毒の変異との対応関係は、現在解析中である。
4: 遅れている
本年度はコロナ禍の影響で海外渡航がまったく実施できなかった。そのため、計画していた中国でのヘビ採集、実験、頸腺毒採取、および標本計測はいずれも行えなかった。また、台湾での採集と行動実験も実施できなかった。
次年度は基本的に本年度に実施する予定であった内容を行う。主な対象種は中国大陸産の4種(チフンヤマカガシ、レオナルドヤマカガシ、ミゾクビヤマカガシ、イツウロコヤマカガシ)とする。9月に中国を訪問し、現地の共同研究者の協力のもとに、それぞれの生息地域を訪れ、これらの種を採集する。特にチフンヤマカガシは多数個体の採集が期待できる地域が四川省にあるので、多くの個体を採集し行動実験に用いる。ミゾクビヤマカガシは分布域が広いため、四川省のほか雲南省、貴州省、陝西省、甘粛省などでの採集を試み、食性や頸腺化学成分の地理的変異分析の対象とする。レオナルドヤマカガシの分布域はこれらに含まれるので、合わせて採集を試みる。また、潜在的に餌動物となりうるヒキガエル類およびホタル類も可能な限り採集する。野外でのヘビの捕獲時には、強制嘔吐法により胃内容物を調べる。採集した個体は成都生物研究所で飼育し、頸腺毒の抽出、および、ヒキガエルやホタルに対する嗜好性の行動実験を実施する。一部の個体は分子系統解析のための組織を摘出したのち、液浸標本とし、捕食に関わる頭骨形態の計測を行う。また、採集したヒキガエルの皮膚毒およびホタルの毒成分の抽出と保存を行う。化学成分分析と分子系統解析は京都大学等で行うため、化学サンプルとDNAサンプルは日本へ持ち帰る。コロナ禍の影響が続き、渡航が困難な場合は、中国の共同研究者に依頼して、成都生物研究所に保管してある既存の標本を用いて、頭骨形態の計量をマイクロCTスキャンによって実施してもらう。比較対象としての日本国内のヤマカガシ、ヒキガエル類およびマドボタル類の採集も継続し、毒成分の化学分析および嗜好性実験を行う。時間的に可能であれば、台湾を訪問し、台湾固有種のスウィンホーヤマカガシの採集許可手続きに関して現地の研究協力者と協議し、捕獲、実験を試みる。
コロナ禍の影響で海外渡航がまったく実施できなかったため、国外旅費経費を執行できなかった。また、これに関係する行動実験や分析等もほぼ実施できなかったため、物品経費にも余剰がでた。本年度は渡航日数や人数を増やし、海外での採集個体の増数を試み、遅れを取り戻す。また、日本国内の種を用いて代替となりうる関連研究課題の実験および化学分析を追加で実施する。
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Current Herpetology
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