研究課題/領域番号 |
18KK0206
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北山 兼弘 京都大学, 農学研究科, 教授 (20324684)
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研究分担者 |
相場 慎一郎 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (60322319)
宇野 裕美 京都大学, 生態学研究センター, 特定准教授 (30803499)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2024-03-31
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キーワード | 生態系生態学 / 生理学 / 群集生態学 / 元素欠乏 / 生物地球化学 |
研究実績の概要 |
本研究では以下の2仮説を検証し、熱帯降雨林生態系の空間的変異のメカニズムを明らかにする。 1)熱帯降雨林生態系では、内在的な生物地球化学的作用によりP欠乏とN欠乏を2つの端点とする環境傾度が形成される。2)この傾度にそって樹木が非対称な応答を示すことで、熱帯降雨林生態系は空間的に変異する。 当該年度においては、マレーシア・サバ州(ボルネオ島)の試験地から前年度に採集した土壌の化学分析を行った。サバ州デラマコット森林保護区に網羅的に設定した森林プロットにおいて、表層から深さ50cmまで一定間隔で土壌を採集し、京大に持ち帰って保存している。これらの土壌に選択溶解法を適用した。まず、ジチオナイト(還元剤)により土壌の結晶性Fe・Alを溶解し、ICP(発光プラズマ分光分析法)によりFe・Al濃度を決定した。次に、酸性シュウ酸抽出溶液により、非晶質Fe・Alを溶解し、同様にFe・Al濃度を決定した。残りの新鮮土壌サンプルを用い、pH、全N、有機態炭素(C)、無機態N、可溶性P、全P、吸蔵態Pを決定した。さらにフォーリン法により土壌可溶性フェノール濃度を決定した。以上の分析により、非晶質あるいはFe・Al酸化物が、土壌有機態(C、N、P)濃度をどのように支配しているのかを検討した。 土壌生化学的解析として、新鮮土壌サンプルを用い、土壌酵素活性(酸性フォスファターゼ、β-グルコシダーゼ、等)と土壌微生物バイオマス(バイオマスCとN)を決定した。 植生については、ボルネオ島の森林調査区から過去に集められた植生データに除歪対応分析(DCA)法を用いて群集解析を行った。最も大きな植生変異を説明するDCA 1軸に沿って、群集の入れ替わりがどのような土壌要因で説明されるのか、予備的解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大に伴う国外調査制限のために、新たな森林調査区の設定や土壌採集を行うことができなかった。このため、前年度に採集した土壌を使って、化学分析を進めているが、サンプル数が計画通りに伸びていない。研究の遅れを補完するため、新たに土壌生化学的解析を行った。新鮮土壌の土壌酵素活性(酸性フォスファターゼ、β-グルコシダーゼなど)と土壌微生物バイオマス(バイオマスCとN)を決定し、土壌酵素活性がどのような土壌理化学属性や微生物属性によって説明されるのか、重回帰モデルによる解析を行った。この解析から興味深い結果が得られ、学会で発表することが出来たので、研究を新たな方向に展開できたと判断できる。しかしながら、当初に設定した作業仮説の検証は予定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
当年度は、マレーシア・サバ州において、異なる地質に由来する、多様な土壌タイプ上に成立している熱帯降雨林に複数の調査区を増設し、森林樹木群集の調査と土壌採集を実施する。各調査区内では毎木調査を行って樹木の胸高直径を測定するとともに、樹種同定を行い、群集解析のためのデータを得る。さらに、各調査区において土壌断面を掘削し、土壌サンプルを異なる深度から採集し、サバ州内の共同研究施設と京都大学に持ち帰る。また、各調査区で優占樹種から陽葉と材サンプルを採集し、冷蔵して現地実験室に持ち帰る。 西カリマンタン州においては、氾濫原上の生態系に着目し、過湿な土壌条件下では、土壌中のP画分が乾性条件下とどのように異なるのかを解析する。乾性から過湿に向かう土壌湿度の傾度に沿って、土壌湿度の異なる複数のサイトを選び植生の構造と組成を記録する。さらに、各サイトから土壌を採集し、インドネシア側共同研究施設において風乾させ、保存する。 新鮮土壌あるいは風乾土壌を用い、選択溶解法により土壌Fe・Al濃度を決定、さらにルーチン分析によりpH、無機態N、可溶性P、全P、吸蔵態Pを決定する。採集した葉サンプルについては、硫酸・過酸化水素により湿式灰化し、PについてはICPにより、Nについては比色法により濃度を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの感染拡大のために、予定していたマレーシアにおける海外調査と土壌採集ができず、このため土壌の化学分析についても遅れが生じている。状況が改善し次第にマレーシアにおいて海外調査を実施し、土壌を採集する予定である。これらの現地調査と化学分析を集約的に進めるために、ポスドク研究員を雇用する。さらに、現地調査が出来ない期間に、衛星データ解析などを加えて研究の質的な発展を図るが、この解析をポスドク研究員が担当する。次年度使用の経費については、主にポスドク研究員の雇用に使用する計画である。
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