研究課題/領域番号 |
18KK0210
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
田中 伸幸 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 陸上植物研究グループ長 (40393433)
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研究分担者 |
齋藤 寛 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (00259996)
田島 木綿子 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (00450635)
保坂 健太郎 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (10509417)
井手 竜也 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究員 (80724038)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | 生物多様性 / ABS / インベントリー / 種多様性 / 記載分類 |
研究実績の概要 |
今年度は、アラカン山脈南部、チン丘陵北部、東部石灰岩地帯であるカレン丘陵、半島部およびアンダマン海域で動植物・菌類の合同インベントリーを実施したほか、昨年に収集した標本の検討を行った。また,ミャイク大学に所蔵されるクジラ骨格標本の調査を実施した。 その結果,種子植物ではラフレシア科1種,ショウガ科2種の新種、1新品種を記載した。さらに、ミャンマー産種子植物標本のデータベースを構築し、公開を開始した。菌類では計82点の新規標本からDNAの抽出を完了し,これまで得られた標本から抽出したDNAのバーコード領域の塩基配列を決定し,形態と分子データに基づく種同定を行い,予備的菌類リストを作成した。ハチ類ではオオスズメバチ,トウヨウミツバチなど日本との共通種が記録されたほか,ナンバンクマバチなど東南アジア特有の種も多く記録された。また,マルハナバチの一種などの訪花性ハナバチ類については,標本資料のほか,訪花生態を捉えた写真資料,動画資料も収集した。さらに,タマバチ科については,昨年度までの調査で得られていたイソウロウタマバチ族のタマバチのうち,Lithosaphonecrus属と判断された1種について分類学的検討を進め,その成果を学会発表および論文として投稿した。タマバチ科ではさらに,今年度の調査においてシイ属の一種の芽に形成されたゴールから得られた種が新種であると判断された。これらナラタマバチ族はミャンマーから初記録となる。軟体動物については,半島部アンダマン海より141点の標本を新たに採集した。多板綱(ヒザラガイ類)については,2新種を含む10種のアンダマン海新記録種を確認した。これまで同海域からは19種が報告されていたが,本研究によって27種が分布することが明らかとなった。今後は、さらに調査を進め、ミャンマー生物相の特異性、周辺地域との類似性、日本との関連性について、検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミャンマー天然資源省林務局との国際共同研究協定に基づき、生物多様性条約に則った国際共同生物調査をミャンマー森林研究所との合同インベントリーとして、4回の調査を実施できた。その結果、複数の分類群で新種や新産地を記録し、それらの結果を学術誌に国際的な共著として発表することができた。様々な知見を得ることができたほか、インベントリーの共同研究が一定の軌道に乗ってきたと判断できる。ミャンマー側の研究者や補助スタッフも、インベントリーの方法論について共同調査を行うことにより習得してきており、技術移転においても成果があがっていると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、菌類で実践してきたDNAバーコーディングによる分類群の同定を、広く種子植物標本や昆虫類に適用して、同定の加速化を行う。この研究課題の計画に記したようにデータベースの構築を一つの成果物とし、種子植物について構築し、公開を開始した。このデータベースは、情報の発信公開という一方向性の従来のデータベースと異なり、情報の発信公開以外に、国際共同研究における双方の共同研究者間においての標本の閲覧、管理、共同研究ツールとしての利用を視野に入れたものにする方針である。今年度に作成した種子植物標本のデータベースを、今後は、菌類や昆虫類に広げる方法を検討していく。また、標本管理や生物の同定法についてのワークショップなど人材育成プログラムを始動させたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の一つとして海洋生物に関する成果の発表のための学会出席費用として見込んでいた国内旅費が、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために、学会の開催が延期になったため、その分の国内旅費に余剰が生じた。これについては、次年度に開催される学会において、同様の成果発表を行う計画である。
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備考 |
本データベースは、情報公開のほか、国際共同研究者間の情報共有ツール、標本管理を兼ねている。特徴は、種子植物の国内データベースとしては初めて各標本について国内外の専門家による標本同定システムを取り入れている。これにより、インベントリーの加速化を広く世界の分類学者の協力を得ながら、コレクションの精度もあげることが可能になると考えられる。今後、他の分類群を合わせたデータベース化を検討する。
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