研究課題/領域番号 |
18KK0228
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岡田 賢 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (80457241)
|
研究分担者 |
金兼 弘和 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座教授 (00293324)
小原 收 公益財団法人かずさDNA研究所, その他部局等, 副所長 (20370926)
川島 祐介 公益財団法人かずさDNA研究所, ゲノム事業推進部, 研究員 (30588124)
津村 弥来 広島大学, 医系科学研究科(医), 研究員 (80646274)
|
研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2021-03-31
|
キーワード | マルチオミックス解析 / targeted RNA sequence / プロテオーム解析 / 原発性免疫不全症 / 未診断 / 全エクソーム解析 / STAT1 |
研究実績の概要 |
原発性免疫不全症(PID)は、宿主の遺伝的な要因により生体防御機構が破綻し、様々な病原体に対して易感染性を示す疾患である。これまでに400を超える責任遺伝子が同定され、それに基づき病態解明や治療法の開発が行われてきた。本研究は、有害変異同定に基づくPID患者の診断確定と、それに基づくPIDの病態と発症機構の解明を目的とする。目的達成のため、ゲノム情報を補完するオミックス解析のパイプラインを海外の研究機関と共同で構築し、その有用性を検討する。国際共同研究を行うJean-Laurent Casanovaの研究室は、7000例を超えるPID患者の全エクソーム解析データを持ち、東京医科歯科大学は国内最大級のPID患者コホートを保有する。本課題では、両機関が連携したオミックス解析のパイプライン構築し、PIDの病態と発症機構の解明を国際的に加速する。 研究期間中に、原発性免疫不全症の責任遺伝子群(426遺伝子)をカバーしたtargeted RNA sequenceを構築した。準備的な検討として、全エクソーム解析(WES)で診断に至らなかったものの、後の臨床経過と機能解析からイントロン領域の変異が同定されたSTAT1完全欠損症患者に対してマルチオミックス解析を実施した。その結果、未診断PID患者に対する網羅的遺伝子解析の有用性を示唆する結果が得られた。次に、WESで診断に至らないPID患者(50例以上)に対して、targeted RNA sequence、プロテオーム解析を実施した。現在、得られたデータの解析に取り組んでいる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
原発性免疫不全症の責任遺伝子群(426遺伝子)をカバーしたtargeted RNA sequenceを構築した。準備的な検討として、全エクソーム解析(WES)で診断に至らなかったものの、後の臨床経過と機能解析からイントロン領域の変異が同定されたSTAT1完全欠損症患者に対してマルチオミックス解析を実施した。この患者は、essential splicing部位の変異(128+2 T>G)に加えて、イントロン領域における変異(542-8 A>G)を保有していた。128+2 T>Gは父親由来、542-8 A>Gは母親由来であり、患者末梢血単核球では、STAT1 mRNA、タンパク発現が低下しており、IFN-γ, IFN-αに対する反応性の著しい障害が証明されたことより、STAT1完全欠損症と診断確定した。イントロン領域の変異に由来したSTAT1完全欠損症は世界初であった。Targeted RNA sequenceを行ったところ、遺伝子発現が有意に低下した遺伝子リストのtop 5にSTAT1が検出され、遺伝子発現異常から診断を行うアプローチの有用性が期待できた。さらに同解析により、患者で同定されたイントロン変異がスプライシングに影響を及ぼすことが証明された。これらの研究成果に基づき、本課題は当初の計画以上に進展していると考えている。 次に、WESで診断に至らないPID患者(50例以上)に対して、targeted RNA sequence、プロテオーム解析を実施した。現在、データを解析中であるが、少なくとも2例以上の未診断PID患者が、マルチオミックス解析により診断に至りそうな状況である。解析対象とするPID患者の募集も順調に進んでおり、当初の計画以上の進捗状況と言える。
|
今後の研究の推進方策 |
マルチオミックス解析で得られたデータを如何に解析するかが重要であり、データ解析の適正化に取り組む。Target RNA sequenceで得られたデータは、リンパ球サブセット解析にも活用可能と考え、フローサイトメトリーの結果との比較検討を行う。プロテオーム解析では、赤血球の混入が解析に影響を与えることが明らかとなり、得られたデータの標準化を行った上で比較検討に活用する。現時点で、2例以上の未診断PID患者において、診断に向けた手がかりがマルチオミックス解析で得られている。解析手法の適正化により、より多くの未診断PID患者において、診断が得られると考えている。 研究成果の最大化のためには、解析対象とするPID患者の絞り込みが重要で、臨床症状を正確に把握する必要性を実感している。そこで、本年度に海外共同研究者が在籍するロックフェラー大学を訪れ、解析対象の絞り込みを行うとともに、マルチオミックス解析の対象となる患者検体の輸送方法について議論する予定である。国内では、東京医科歯科大学の金兼と連携して、対象となるPID患者の絞り込みに取り組む。マルチオミックス解析で同定したVUS(variants of unknown significance)の評価には機能解析が必須と考えている。次世代シーケンサーを用いた網羅的解析の導入により未診断患者の診断は飛躍的に進んだが、それで得られる膨大なVUSの評価が、診断率向上の律速段階と言える。その問題に対して、国内外の共同研究者、研究分担者と連携しながら、効率的に機能解析に取り組む予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の想定よりも、解析費用が安価に済んだため、次年度使用額が発生した。次年度に30例を超えるマルチオミックス解析を予定しており、その解析費用に充てる予定である。当初の想定よりも順調に研究が進んでおり、次年度にマルチオミックス解析で同定した候補遺伝子の病的意義検証を予定している。詳細な機能解析を計画しており、次年度使用額を解析費用に充てる予定である。
|