研究課題/領域番号 |
18KK0236
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
竹内 雄一 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 研究員 (70588384)
|
研究分担者 |
大澤 匡弘 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 准教授 (80369173)
McHugh Thomas 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (50553731)
春田 牧人 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (40733663)
|
研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
|
キーワード | てんかん / 脳波 / 実時間処理 / 脳深部刺激 / 前脳基底核 / 大脳辺縁系 / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
薬剤抵抗性の難治性側頭葉てんかんには、高侵襲な外科的手術以外に有効な治療法が乏しく、新たな治療法の開発が望まれている。最近我々は、脳深部に位置する前脳基底核の直接刺激で側頭葉てんかんの発作症状を軽減できることを見いだした。ただしこの成果の臨床応用を考えた場合、持続的脳深部刺激で生じる副作用および侵襲性が問題になる。そこで本研究では、これらの問題を発作時選択的な刺激のデリバリー法および頭蓋外から脳深部を刺激する技術の開発・導入により克服できるか検討することを目的とした。初年度は以下の項目を達成した。 1.てんかんの発作を2ミリ秒の精度でリアルタイムに検出するアルゴリズムを確立した。まず側頭葉てんかんのモデルとしてラット海馬キンドリングモデルを用い、当該ラットの両側海馬、嗅内皮質、および大脳新皮質の計30箇所からてんかん波を電気生理的に記録した。多数のてんかん波記録のシグナル解析・オフラインシミュレーション、およびオンライン(ラットをつないだ状態)でのパラメータ調整により、発作検出アルゴリズムの精度を高めることに成功した。 2.ラット海馬キンドリングモデルにおいて、前脳基底核をオンデマンドに直接電気刺激または光遺伝学的刺激することで、側頭葉てんかんの発作症状を緩解できることを見いだした。 3.経頭蓋近赤外光刺激による脳深部刺激法の実施のため、海外研究協力者と共同し、近赤外光を青色可視光に変換できるアップコンバージョンナノ粒子を作製した。 4.海外の研究実施拠点であるハンガリーセゲド大学において、研究代表者・研究分担者および海外研究協力者ら共同で、動物実験の実施、実験環境の改良、小型光刺激デバイス開発、臨床研究用刺激電極の開発を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における中心的課題の一つである、「側頭葉てんかんの発作をリアルタイムに検出するアルゴリズムの確立」が達成できたため。さらにそのアルゴリズムを利用して、側頭葉てんかんの発作のリアルタイム制御も、おおむね事前に想定していた精度で達成できた。そのため「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の成果を受け、本研究のもう一つの中心的課題「経頭蓋的に脳深部を刺激する技術」の開発・導入を実施する。具体的には以下の研究項目に取り組む。 1.経頭蓋集束電気刺激法による脳深部刺激法の開発:最近我々が開発した経頭蓋集束電気刺激法(ISP法:Voroslakos M et al, 2018)を用い、頭蓋外から前脳基底核をオンデマンドかつ特異的に刺激することで、てんかん発作を緩解する手法を開発する。まず麻酔下動物の頭蓋外から前脳基底核に刺激焦点をデザインした電極対セットを留置し、刺激を行う。刺激の集束精度は、シリコンプローブを用いた電気生理学的手法およびcFos等、神経活動依存的に発現するタンパク質の免疫組織化学染色で評価する。前脳基底核への刺激集束が確認でき次第、海馬キンドリングラットを用いてオンデマンド刺激によるてんかん発作の制御実験に着手する。 2.経頭蓋近赤外光刺激による脳深部刺激法の確立:近赤外光を青色可視光に変換できるアップコンバージョンナノ粒子を介し、低侵襲に脳深部を光刺激できる方法を確立する。まずナノ粒子をチャネロドプシンを導入した前脳基底核に投与する。次に脳内に刺入した光ファイバーから980 nm光で照射することで、当該領域の神経活動変調を介して海馬における局所電場電位のオシレーションを変調できるか、麻酔下動物で検討する。さらに頭蓋外から近赤外光を前脳基底核に照射し、同様に海馬におけるオシレーションを変調できるか検討する。麻酔下での実験が成功し次第、海馬キンドリングラットを用いてオンデマンド刺激によるてんかん発作の制御実験に着手する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が海外研究実施拠点(セゲド大学)において研究分担者と共同で行う実験に関して、事前の電子メールおよびSkypeによる打ち合わせにより、研究代表者が単独で実施することが可能になり、研究分担者らが渡航費・滞在費を支出しなかったため。また当該年度予定していたウイルスベクターの作製実験を、本年度の実験結果に応じて翌年度行う計画に変更したため。その他、実験の進展に応じて、電極類、光学・電子部品類、遺伝子改変動物の飼育費など、消耗品の必要数量に変更が生じたため。 繰り越し分は翌年度請求分と合わせて、消耗品費、ウイルスベクター作製費、小型刺激デバイス開発費、研究代表者および研究分担者の海外研究実施拠点への渡航費・滞在費として使用する計画である。
|