これまでの研究を通じて我々は、『HIF-1を活性化する新規遺伝子HPF4』の同定に成功し、『がん抑制遺伝子p53の機能不全を引き金に、HPF4がHIF-1を活性化できるようになり、がん細胞の放射線抵抗性と浸潤能が高まる』ことを見出してきた。またヒト検体を対象にした研究を通じて『HPF4の腫瘍内発現量が高い場合に、がん患者の生命予後が不良であること』を見出している。本研究を進展させるためには、HPF4-HIF-1経路を治療標的とする妥当性を確認すること、具体的には『HPF4・HIF-1・p53を繋ぐ機能的相互作用の実態を解明すること』、そして『培養細胞レベルと臨床レベルの研究を繋ぐ動物個体レベルの検証』が必須である。そこで今年度は、HPF4・HIF-1・p53を遺伝子工学的に操作する研究ツールや遺伝子改変動物等の研究資材を用いて、HPF4の作用機序と機能を解明することに取り組んだ。 HPF4はHIF-1制御サブユニット(HIF-1alpha)の発現量に影響を及ぼさず、その転写活性化能を亢進する作用を持っていることを明らかにした。HPF4がN末端のαヘリックスによってホモ二量体を形成すること、そしてこのホモ二量体形成がHIF-1活性の誘導に必須であることを見出した。当該αヘリックスに点変異を導入し、二量体形成能を消失させたHPF4変異体がHIF-1活性化能を失っていることを確認した。野生型HPF4の過剰発現によって腫瘍増殖が亢進する一方で、ホモ二量体形成能を失ったHPF4変異体は腫瘍増殖亢進能を持っていないことを確認した。HPF4 N末端のαヘリックスを模倣したポリペプチドが、HPF4のホモ二量体形成を阻害し、HPF4-HIF-1経路の活性化によって発言が誘導されるマトリックスメタロプロテアーゼ群の発現誘導を抑制する作用を持つことを確認した。以上の結果から、HPF4のホモ二量体形成を阻害する有用性を確認した。
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