研究実績の概要 |
ブルガダ症候群(BrS)は心電図ST上昇を特徴とし東アジアの中壮年男性に好発する遺伝性不整脈であり、一部の症例は夜間突然死をきたす。致死性不整脈の遺伝的リスクは不明で、発症前に突然死のハイリスク患者を特定する有効な手段はない。BrSの遺伝的なリスクに関する研究は白人をベースとしたゲノムワイド関連解析(GWAS)があるが、日本人を含めたアジア人の解析の報告はない。 本研究ではまず日本人BrS 746人と健常コントロール1,146人でGWASを行った。その結果、白人のBrS GWASと同様、SCN10A, SCN5A, HEY2に統計学的に有意なSNPを同定した。さらにconditional analysisを行ったところ、染色体3のEXOG近傍, 染色体15のIGF1R近傍に新たな独立したSNPを同定した。これらの5つのSNPはフランス人(BrS 1,058人、コントロール6,346人)、台湾人(BrS166人、コントロール15,981人)でも確認された。次に致死性不整脈の遺伝的リスクSNPを解明するために日本人BrSのうち致死性不整脈発症例214人と無症候例325人で再解析したところ、統計学的有意差レベルには達しないが、有望な4つのSNPを同定した。この4つのSNPについて日本人BrS 746人でKaplan-Meier生存解析を行ったところ、染色体2, 3, 5, 7のSNPは有意に早期に致死性不整脈発症をもたらすことが判明した。フランス人BrS 1,058人ではこの結果は再現できなかった。台湾人BrS 166人では有意差はなかったが、サンプルサイズが小さいためパワーが複素している可能性が考えられた。白人よりも予後が悪いアジア人BrSの遺伝的リスクを解明するためにタイ人BrS 166人を加え、台湾・タイによるアジア人メタ解析を開始した。
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