研究課題/領域番号 |
18KK0282
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研究機関 | 同志社女子大学 |
研究代表者 |
奥田 紫乃 同志社女子大学, 生活科学部, 教授 (60352035)
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研究分担者 |
田口 智子 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 研究員 (90755472)
岡嶋 克典 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (60377108)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | 文化財 / 保存・修復 / 色彩情報 / 材料物性 / 評価実験 |
研究実績の概要 |
2020年2月にグラナダ大学で実施した2種の浮世絵画像を視対象としたスペイン人観察者による評価実験結果を分析した。その結果、いずれの絵画画像においても、照度が高いほど”鮮やかな”印象が強く、照明が好ましく感じられる傾向が示された。”暖かい-冷たい”の評価では、照度による影響は見られず、色温度た高いほど”冷たい”印象が強かった。また、青を多く含む絵画では、高色温度の照明条件下で好ましく感じられる傾向がみられた。これらの結果について、AIC(国際色彩学会、オンライン開催)にて成果発表した。前年度に実施した、白色壁面をもつ建築物の劣化シミュレーション画像を用いた主観評価実験結果を分析し、彩度低下のみの条件では、それほど古く感じられないが、ムラを付加すると古さ感を強く感じる傾向がみられること、エイジングを施さないファサード画像よりも、ムラを少し付加した条件で落ち着きや親しみが感じられることが示された。これらの結果について、Euro Sense 2020(オンライン開催)にて発表した。奈良女子大学所蔵の正倉院模造宝物「紅牙撥鏤尺」について、文献調査及び二次元分光放射輝度計にて取得した色彩情報の解析を行い、赤色箇所の色材に臙脂と蘇芳が使用されていることを明らかにした。これらの結果について、日本文化財科学会第37回大会(オンライン開催)にて発表した。また、東京藝術大学大学美術館陳列館にて開催された展覧会「日比野克彦を保存する」に協力した。現代美術作家・日比野克彦のアトリエ保存プロジェクトに関する展示に加え、「芸術と保存に関するインタビュー」のパネル展示や来場者へのアンケートを行い、立場による保存修復への考え方の違い等についてデータを収集した。展覧会に関する小冊子を作成し、会場の360度撮影によるバーチャルツアーを公式ホームページにて公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年3月に実施予定であったマドリードの美術館(Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofia、及びMuseo Nacional Thyssen-Bornemisza)での絵画データの実測調査が新型コロナウイルス感染症の流行により、スペインへ渡航することができなくなり、データ取得に至っていない。また、2020年2月に実施したスペインでの評価実験と同視対象画像を用いた日本人観察者による評価実験結果を東京藝術大学で実施中であるが、新型コロナウイルス感染症流行による学内入構制限等の影響により、目標被験者数に達していない状況である。2020年度前半は、研究代表者・研究分担者ともに各所属における遠隔授業対応や大学入構禁止措置等によりほぼ研究に従事することはできなかった。また、実施済みの日本人による評価実験結果(目標被験者数の半数が修了)を、2020年4月のLux Pacifica(サンクトペテルブルク)で発表予定であったが、論文投稿済みであるものの、会議開催そのものが2022年まで延期となったため、原稿の取下げもできないまま未発表の状況である。2020年度後半においては、上述の浮世絵に使用されている色材を同定し、その色材を用いて作成した色票を人工的に劣化させた分光反射率データを取得した。また、AIC(国際色彩学会)や日本文化財科学会において、これまでに得られた知見を報告した。研究代表者、研究分担者とオンライン会議ツールを用い、色票の劣化データを元に、浮世絵の劣化シミュレーションプログラムの作成方法について議論を重ねた。
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今後の研究の推進方策 |
スペインでの絵画分光データの取得ができないため、渡航可能となる時期を待つしかない状況である。国内で実施可能な新たな文化財調査や、劣化シミュレーションプログラムの開発を進めながら、社会情勢を見ながら日本人観察者による評価実験を完了させ、日本人とスペイン人による評価傾向の比較検討を実施する。また、国内で取得可能な文化財データとして、玉川大学教育博物館所蔵のジョン・グールド鳥類図譜の実測調査を行う予定であり、得られたデータを用いて、使用されている色材の同定や、分光データ取得による照明シミュレーション画像の生成を計画している。さらに、社会情勢を見ながら国内での評価実験を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月のマドリードでの調査が不可能となったため、2019年度に執行予定の研究費が2020年度に繰り越され、さらに2020年度は調査のための海外渡航、成果発表のための国内外の学会参加、研究打合せ・実測のための旅費がいずれも執行されていない。また、評価実験を実施することが難しい状況であったため、謝金も執行されていない。事実上、2020年度の研究活動は極めて限定的であったと言わざるを得ず、本来実行予定であった研究活動に要する研究費が、次年度に繰り越されている状況である。
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