研究課題/領域番号 |
18KK0282
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研究機関 | 同志社女子大学 |
研究代表者 |
奥田 紫乃 同志社女子大学, 生活科学部, 教授 (60352035)
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研究分担者 |
田口 智子 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 研究員 (90755472)
岡嶋 克典 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (60377108)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2023-03-31
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キーワード | 文化財 / 保存・修復 / 材料物性 / 評価実験 |
研究実績の概要 |
玉川大学教育博物館が所蔵するジョン・グールド鳥類図譜より、『ハチドリ科鳥類図譜』に収録されている「オウギハチドリ」及び「トゲハシハチドリ」の着彩箇所について、デジタル顕微鏡及び蛍光X線分析装置による調査を実施した。その結果、同一の色彩を示す箇所であっても異なる色材や技法が使用されていることが明らかとなり、これは各鳥類の特徴を忠実に描写するための工夫と考えられた。これらの結果を、玉川大学教育博物館紀要に報告した。 また、同『ハチドリ科鳥類図譜』に収録されている「アオノドハチドリ」、「アンナハチドリ」、「ルビートパーズハチドリ」、「サファイアハチドリ」の4作品を、2次元分光放射計を用いて測定した。一般的に広く使われているLED光源の分光分布を念頭に、相関色温度(CCT)と偏差(duv)が異なる36種の照明条件を設定したほか、色度が同値で分光分布の異なる条件をそれぞれ4条件設定し、計52種の照明条件下での作品の見えをシミュレートする画像生成プログラムを作成した。 2018年度に実測・生成した浮世絵(見立橋尽 日本橋 河原崎三升, 豊原国周作)の劣化画像を視対象として評価実験を実施した。太陽光照射装置を用いて多量の紫外線を含む直射日光下の状況を人工的に作り出すことで浮世絵を急速に劣化させ、劣化段階の異なる浮世絵画像を生成した。その中から、0時間、72時間、168時間の3段階の劣化段階の異なる浮世絵画像を選定した。照明条件の設定においては上述の画像生成プログラムを使用し、CCTとduvが異なる20条件に、色度が同値で分光分布の異なる4条件を加えた計24種の照明条件下で、絵画の色の見えや印象に関する評価実験を実施した。 さらに、POLA美術館に所蔵されているClaude Monetの作品、「睡蓮の池」、「セーヌ河の日没、冬」、「ルーアン大聖堂」の2次元分光データを取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年3月に実施予定であったマドリードの美術館(Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofia、及びMuseo Nacional Thyssen-Bornemisza)での絵画データの実測調査は、新型コロナウイルス感染症の流行により、2021年度末時点においてもデータ取得に至っていない。また、2020年2月に実施したスペインでの評価実験と同視対象画像を用いた日本人観察者による評価実験結果を東京藝術大学で実施中であるが、新型コロナウイルス感染症流行による学内入構制限等の影響により、目標被験者数に達していない状況である。2020年4月に成果発表予定であったLux Pacifica(サンクトペテルブルク開催)も会議開催の見通しが立たず、実行委員会からの連絡も途絶えている。 2021年度においては、玉川大学教育博物館所蔵の作品を対象として、絵画の分析方法に関する検討をすすめ、照明光のシミュレーションプログラムを作成した。また、劣化段階の異なる浮世絵画像を対象として好ましい照明条件を明らかにすることを目的とした評価実験を実施し、現在、結果を分析中である。また、2021年度に引き続き、浮世絵の劣化シミュレーションプログラムの作成をすすめている。研究代表者、研究分担者と調査実施の際の対面によるミーティングやオンライン会議により、継続して議論を重ねている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年3月にPOLA美術館でMonetの3つの作品の2次元分光データを取得することができた。今後はこのデータを用いて各種分析を進めると同時に、作成した照明シミュレーションプログラムを用いて、種々の照明条件下での作品の見えを評価する実験を、日本とスペインで実施することを計画している。また、2022年夏季以降にスペインに渡航し、マドリードのソフィア王妃芸術センター、ティッセン=ボルネミッサ美術館での実測調査、およびスペインでの油彩絵画(Monet作品)を対象とした評価実験を計画している。また、浮世絵画像の日本人観察者による評価実験を完了させ、日本人とスペイン人による評価傾向の比較検討を実施する。さらに、浮世絵の劣化シミュレーションプログラムの開発を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に計画していたマドリードでの実測調査が、2020年度に続き2021年度も新型コロナ感染症拡大のため実現できなかった。2020年度に続き、2021年度の研究活動も極めて限定的であったと言わざるを得ず、本来実行予定であった研究活動に要する研究費が、次年度に繰り越されている状況である。
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