研究課題
HIV-1逆転写酵素では、各種阻害剤に耐性となる変異が多数報告されており、配列決定を行ってから、有効な阻害剤を選択しなければならない。しかし、医療現場で配列決定を行うことは、新興国では困難である。本研究では、インドのジャイプルに集中研究室を設立し、変異の迅速な検出を実現することを目的としている。2019年度は、①ビヤニ、横田、ビヤニ大学のDr. Sanjay Biyani理事がラジャスタン州・医療健康福祉局(Department of Medical, Health, and Family Welfare)のHIV/AIDS局を訪問し、局長のDr. Samit Sharmaとラジャスタン州・エイズ予防協会(Rajasthan State AIDS Control Society)のDr. S.S.Chauhanと、現地でのHIV/AIDS検査検体入手について打ち合わせを行った。②ビヤニ、保川、兒島、横田、吉高、野原がデリー(インド)の日本大使館を訪問し、大使館秘書、独立行政法人国際協力機構(JICA)インド事務所駐在員と、インドでの活動について意見交換を行った。③ビヤニ大学(ジャイプル)に設置した集中研究室に必要な機器を設置し、実験を行う学生の教育を行った。④ビヤニと横田がSK Gout Medical College, Department of Community Medicine助教のDr. Priyanka Kapoorを訪ね、検体入手に関する打ち合わせを行った。⑤TGGEの変曲点を検出するソフトウエアの開発については、入力画像に対して軌跡の濃淡さや背景領域の濃淡差を正規化する処理を適用し、軌跡間並びにサンプル間の濃淡差の差異による検出性能のばらつきを抑制した。さらに軌跡検出処理の精度向上を意図して軌跡と背景間のコントラスト強調処理を施し、軌跡の検出処理を実装した。
2: おおむね順調に進展している
・集中検査室の設置:集中検査室のセットアップが完了した。2019年9月に保川、兒島、堤がビヤニ大学を訪問し、学生にRNA増幅法とRPA法を指導した。その結果、ビヤニ大学で検査が行える見通しがたった。・HIV/AIDS検査検体の入手:関係機関であるラジャスタン州・医療健康福祉局および日本大使館を訪問し、検体入手に関する各種情報を入手した。さらに、HIV/AIDSの検体を扱っている現地のSMSメディカルセンターと共同研究をしているDr. Priyanka KapoorからSMSメディカルセンターに、我々が現地でHIV/AIDS検査検体を使用することについての許可をお願いしてもらえることになった。検体入手の見通しが得られたとみている。・TGGEによる変異の判別:変異検出のモデルとして、184位のアミノ酸残基がMetである遺伝子とValである遺伝子を検出する系を設計した。実際に変曲点が異なることを確認した。・TGGEの変曲点を検出するソフトウエアの開発:京都大学で取得したTGGEパターンを用い、本研究で開発したシステムで求めたTGGEの泳動パターンの変曲点が、従来の目視で求めたそれと概ね一致した。
・HIV/AIDS検査検体の入手:2020年8月にビヤニと横田がDr. Priyanka Kapoorと再度打ち合わせし、HIV検体の使用が可能かどうかを確認する。SMSメディカルセンター長らとの共同研究に関する同意・許可証と倫理審査の許可証を得る。また、現地での現地インド政府から現地でのHIV簡易検査、カウンセリング、ラボ検査等が可能かどうかについて、5つの組織団体(SMS Medical College Jaipur、Rajasthan state AIDS control society、NACO (National AIDS Control Organization、RSACS (Rajasthan AIDS Control Society)、National AIDS Research Institute)を訪ね、情報収集と共同研究許可を進める。・TGGEによる変異の判別:184位のアミノ酸残基がMetである遺伝子とValである遺伝子を検出する系をモデルとして、PCRによる増幅断片の長さや変異の位置が変曲点に与える影響を解析する。さらに、新たな変異検出系を複数開発し、同様の解析を行う。・ソフトウエアの開発:本研究で開発したシステムで求めたTGGEの泳動パターンの変曲点と、従来の目視で求めたそれの一致率を上げることを目指す。具体的には、軌跡の追跡性能や変曲点の検出精度の向上を図るために、SIFTによるフィルタリング、Haarフィルタによるフィルタリング、小ブロック領域単位の方向性フィルタを適用する処理を設計し実装する。
HIV-1検査検体の入手経路の確立に時間がかかり、評価を2020年度に行うことになった。また、新型コロナウイルスの流行のため、2020年2月および3月の海外出張が中止となった。ただし、全体計画に大きな影響はない。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
PLoS One
巻: 15 ページ: e0228774
10.1371/journal.pone.0228774
Journal of Biologcal Macromolecules
巻: 20 ページ: 17-22
The Journal of Biochemistry
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10.1093/jb/mvz073
http://www.enzchem.kais.kyoto-u.ac.jp/