研究課題/領域番号 |
18KK0289
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
水野 亮 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (80212231)
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研究分担者 |
西澤 智明 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 室長 (10462491)
神 慶孝 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 特別研究員 (30749718)
弓本 桂也 九州大学, 応用力学研究所, 准教授 (50607786)
長濱 智生 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (70377779)
秋吉 英治 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 室長 (80211697)
杉田 考史 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 主任研究員 (90312230)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2024-03-31
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キーワード | エアロゾル / ライダー観測網 / オゾンホール / 同化予報モデル / ミリ波大気分光 |
研究実績の概要 |
計画初年度に当たる2018年度は、まず9台の多波長ライダーから成るエアロゾル観測網およびオゾンホール観測機器の整備とデータ解析システムの整備を進めた。アルゼンチンの経済状態の悪化から相手国側での十分な予算確保ができず、装置面の整備においてやや遅延が見られたため、日本からフラッシュランプなどの消耗品を支援した。また、3月に派遣した若手研究員により、ブエノス・アイレス、コルドバ、ネウケンの3箇所のライダーのアラインメントが改善され、より良質のデータが取得できるようになった。オゾンホール観測では、ブリューワ分光計は順調に稼働を続けデータをWOUDCの国際データベースに提供している。ミリ波分光計は極低温冷凍機用チラーのトラブルにより連続観測が中断したが、分光データ解析システムの見直しと改良を進め、オゾンホール予測のデータ同化に向けた準リアルタイム解析システムの基盤を固めた。また、2017年までに取得したデータの解析を進め、オゾン鉛直分布と渦位や温度等の気象場との比較からオゾンホール境界部のオゾン変動の特徴を観測的に明らかにした。さらにオゾンホールの形状変化やオゾン鉛直分布の微細構造の理解について、モデルおよびオゾン観測データと気象場の比較から下層大気の波動による影響が重要であることを指摘する論文を2編発表した。また、2009年のオゾンホールの偏心イベントをもとに、同化モデルを用いた南米南端部でのオゾンホール予測実験を進め、同化するデータの種類や予測計算開始日等の条件を変えることで予測にどのような影響が出るかを調べた。その結果、オゾンホールが南米南端部にさしかかかる数日前から予測計算を開始した方が、オゾンホール勢力圏内に入った後に計算を開始するよりも実測データとの再現性がよいという予想外の結果が得られ、オゾンホール勢力圏に入る前の下層大気の情報が予測に影響している可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エアロゾルライダー網の維持・整備において、アルゼンチン側の経済状況の悪化に伴い、故障し不具合が生じたレーザーの復旧に遅滞が生じたことや、落雷により新たにレーザーが故障するなどの不測の事態が発生した。ネットワークを構成するライダーに、エアロゾルの輸送過程を研究する上での優先順位をつけ、上位のライダーの故障機材を下位のライダー機材で置き換えるなどの対応を行った。研究上の要所のデータ欠損をできる限り抑えたことにより大きな支障とはなっていない。またオゾン観測においては、ブリューワ分光計は故障もなく順調に稼働している一方、アルゼンチン側の経済状況のため差分吸収型オゾンライダーのレーザ発振に必要なガスが十分確保できていない問題があった。これに対してはミリ波分光計でオゾン鉛直分布を観測することでオゾンライダーの欠損を補填していきたいと考えている。2018年度はミリ波分光計も装置の故障で運用を中断していたが、故障箇所の同定と対処法は明らかになっており、2019年度以降に再開し観測を軌道に乗せたいと考えている。若干の遅延はあったものの6年間の計画の中での大きな支障とはなっていないと考えている。チリ側は故障や消耗品の調達などでの問題もなく、共同研究は概ね順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
データ解析およびモデル関係の研究は順調に進捗しており、初年度に明らかになった課題、例えばオゾンホール予測の計算開始日時の影響の気象・物理学的理解を2年次以降に詰めていく。観測面での課題は観測装置の安定運用で、アルゼンチンの経済状況の悪化は2019年度も同様に続くと予想されるため、その対策が必要となる。相手国機関で前年度予算で承認されていたものの、執行段階で予算がキャンセルされるという想定外の事態が発生しており、当初計画では相手国への渡航費を多めに計上していたが、SkypeやZoomなどのTV会議システムをできる限り活用して旅費の支出を抑え物品費に回すこと、および他の外部資金を獲得して相手国機関の経済的支援を行うことで状況を改善したいと考えている。2019年度中に観測網の運用を正常化し、3年目以降は当初計画どおり、データ解析と同化モデル開発に主体をおいた研究に移行できるように進めていきたいと考えている。
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