研究課題/領域番号 |
18KK0289
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
水野 亮 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (80212231)
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研究分担者 |
西澤 智明 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 室長 (10462491)
神 慶孝 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 研究員 (30749718)
弓本 桂也 九州大学, 応用力学研究所, 教授 (50607786)
長濱 智生 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (70377779)
秋吉 英治 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 室長 (80211697)
杉田 考史 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 主任研究員 (90312230)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2024-03-31
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キーワード | エアロゾル / ライダー観測網 / オゾンホール / 同化予測モデル / ミリ波大気分光 |
研究実績の概要 |
2021年度は、年度内の南米出張を期待していたが、オミクロン株感染の拡大により再び世界的に困難な状況となり、結局我慢の一年であった。また、相手国内においても国内移動制限があり、現地研究者のみでも行える修理もままならない状況で、エアロゾルライダーに関しては観測停止を余儀なくされ、新たな観測データの蓄積や解析を行うことはできなかった。一方、コロナ禍以前に取得したデータについては解析を実施しデータセット化した。また、モデル同化研究の推進を念頭に、モデル同化用の測定パラメタおよびそのフォワードモデルの検討、およびデータ同化用の入力(観測)データセットの構築を既存のSAVER-Netデータを用いて行った。 オゾン観測装置群についても、同様にコロナ禍によりミリ波分光計の修理が実施できず、観測システムの再稼働には至らなかった。オゾン(差分吸収)ライダーについては、相手国の担当研究者が一身上の都合でスウェーデンの研究機関に移籍し研究グループから離脱してしまい、観測できる人材が不在となった。新たな人材が見つかるまでは単一波長のレーリーライダーとして気温の鉛直分布観測を行うこととした。一方、ブリューワ分光計、紫外線放射計、雲カメラなどの紫外線関連の観測装置は定常的に運用できており、特にブリューワ分光計観測結果はEuBrewNetに提供した。 また、SAVER-Netでの次期重要課題である森林火災由来のスモークの観測研究において重要な役割を果たすと期待しているボリビアとの共同研究をできる範囲で進めた。前年度に試作し国内での試験観測を行った偏光測定モジュールについて、今年度は現地での運用体制も考慮して装置故障の抑制とSN向上を図り、試作機の遮光性を高める改良を施して最終版の実機を作成した。同モジュールは2022年度中にボリビアに送付し、相手国の現有ライダーに取り付けて偏光観測を開始する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要でも述べたように、2021年度は2020年度に引き続き世界的なコロナ禍により南米に出張することができず、計画通りに研究を進めるのが困難な状況であったため、「計画よりやや遅れている」とした。 エアロゾルライダーおよびミリ波オゾン分光計を用いた定常観測は本計画で重要な位置を占める。しかしながら、相手国側が設計製作した部分で観測所要員に対する依存性が高く種々の問題の元凶となっていた。そこを東アジアに展開しているメンテナンスフリーのAD-Netの設計思想に基づき、光学系システムを抜本的に改良する検討を進めてきた。また、ミリ波分光計に関しては、日本国内のメーカーとの議論をもとに冷却水チラーの故障原因を究明し早急に再稼働させる手筈を整えてきた。それらの対策を具現化するのが、2020年度以来の課題であったが世界的なコロナ禍により2021年度も足踏みせざるを得ない状況となった。さらに、エアロゾル関係では、火山灰の輸送モデル開発を担当していた相手国側のデータ解析グループのリーダーが他界し、オゾン関係ではオゾン観測用差分吸収ライダーのオゾン吸収を受ける波長のレーザーであるエキシマレーザーを運用できる担当研究者が、一身上の都合でスウェーデンの研究機関に移籍し、アルゼンチン南端部の観測体制が急速に弱体化した。親機関であるDEILAPが2022年度から新たな技術職員を2名補充する予定であるなど、南端部のオゾンホール観測の重要性を理解し本計画に協力的であるが、相手国の経済的な事情からなかなか厳しい課題を抱えている。相手国側のシニア研究者が薄くなった一方、若手の研究者が次のリーダーとなるべく共同研究をまとめる方向に尽力し、新たな大学院生の成長も見られるようになっており、そうした若い世代とともに、残り期間で研究の遅れをとりもどしたい。
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今後の研究の推進方策 |
まずは2022年度内(秋頃を予定)にアルゼンチンに渡航し、故障しているエアロゾルライダー、ミリ波分光計の修理を行い、観測を立ち上げてあらためて軌道に乗せることが最優先課題だと認識している。幸い、国内外においてウィズコロナに日常生活もシフトしてきており、各国の水際対策も緩和される方向にあるので今年は必ず実現させたい。あとは相手国側の体制の強化である。病気や一身上の理由などで相手国側のキーパーソンが2人減少した。一方で、ここ数年の間に、DEILAPの研究者がアルゼンチン気象局にモニタリング観測関係の責任者として移動し、観測網の組織化やネットワークの改善に期待が持てる。また大陸南端部の観測所では、新たに2人の技術者を雇用し、現地の運用体制の強化を進めている。また、観測の合間に現地の大学院生に実機を用いてライダーの原理、構造、運用方法を指導するなど、次世代の研究者の育成が進んでいる。2022年6月から7月にかけてJICAの終了後評価が予定されているが、その機会に日本が資金投与した観測網の維持のための体制強化を関係機関に提言していきたいと考えている。 データ解析およびモデル関係の研究は順調に進捗している。研究を進める中で、いくつか想定外の結果もでてきたが、それらを新たな課題として原因を追求し、解決することで着実に成果をあげている。データ同化の準備も進んでおり、あとは同化すべき現地の観測データを取得するところが最大かつ最重要の課題である。 観測空白域である南米地域での観測網を充実し、地球観測衛星の地上検証に貢献することも本課題の目標の一つとなっている。この実現のためには、より安定・頑強な観測システムへの移行や持続可能な観測体制の確立が重要であることがコロナ問題により浮彫となった。そのための観測システム・体制の改善方法の考案とその実現も重要な課題と認識し取り組んでいく。
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次年度使用額が生じた理由 |
主としてコロナ禍により相手国への研究者派遣ができなかったために次年度使用額が生じた。また、これには出張に合わせて現地で使用する予定であった保守部品等の費用の未使用分も含まれる。次年度使用額は、基本的に相手国への研究者派遣に使用する予定である。相手国における観測機器の故障対応、保守、相手国研究者との打ち合わせ等、実現できなかった用務を行う。
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