研究課題
2022年度は、コロナ禍が下火となったとは言え、ウクライナ-ロシア紛争の影響や燃料費の高騰など海外渡航には依然として困難な状況が続いた。1月末にはアルゼンチンとチリへの渡航が実現し、共同研究を再開する上での課題の整理と優先順位づけについての議論を対面で進め、さらに現地で観測装置の状態確認ができた。オゾン観測装置群については、コロナ禍で実施できなかったチラーの修理と長期間放置されていたミリ波受信機周りの状況確認をした。個々の構成部品については動作確認を行い大きな問題は確認されなかったが、制御用PCが故障し、極低温冷凍機のヘリウムガス圧が規定値を下回っていたため、観測再開には至らなかった。差分吸収オゾンライダーについては、相手国担当研究者の異動があり観測が頓挫していたが、米国NASAのライダーグループからの技術支援とレーザーに必要な希ガスの資金的支援を得ることができ、再開の目処がでてきた。一方、ブリューワ分光計、紫外線放射計、雲カメラなどの紫外線関連測定器は定常的に運用できている。化学気候モデルを用いたオゾンホール予測実験については予測精度を数値化し、これまでの予測実験の結果をあらためて評価することで、予測精度の予測開始日依存性、初期値にオゾンプロファイルを同化することの重要性を再認識し、今後の課題を明らかにした。この内容は博士論文としてまとめられた。ライダー網を用いたエアロゾル研究に関しては、観測システムの自動化・無人化を図るための抜本的な改良を推し進めてきたが、メールやTV会議では十分に意図が伝わらずに誤った改修がなされていたことが明らかになり、日本側研究者が現地に渡航する必要性を再認識した。一方、アマゾンスモークの観測で重要な観測点となるボリビア研究者との交流は円滑に推移しており、現地のライダーシステムに偏光解消度を測定するための物品の輸送が具体的に進んだ。
3: やや遅れている
研究実績の概要でも述べたように、2020年度からの世界的なコロナ禍により南米への出張が難しくなり計画に遅れが生じた。本年度、相手国に渡航することはできたが、2年間の遅れをカバーする成果には至らなかったので「計画よりやや遅れている」とした。コロナ禍の2年間に、相手国側のライダーデータ解析の主要研究者が他界し、オゾン差分吸収ライダー担当研究者がスウェーデンの研究機関に移籍するなど、相手国側のシニア研究者層が弱体化した。その一方で次世代のリーダーと期待される若手研究者が徐々に力をつけ、観測装置の再立ち上げを牽引しつつある。エアロゾルライダーを用いた定常観測は、本計画で重要な位置を占めるが、相手国側が設計製作した部分で経時変化の要因となっていた微調整機構を排除し、機械加工で目標精度を達成する抜本的な改良を進めた。しかしながら相手側研究者の原理的な部分に関する理解が不十分であったため、こちらが意図した改修がなされず十分な成果が達成できていない。オゾンホール観測のミリ波分光計に関しては、日本国内のメーカーとの議論をもとに冷却水チラーの故障原因を究明し、再稼働させる手筈を整えてきた。1月の渡航時に対処法は確立できたものの、1ヶ月ほど運転すると同様のトラブルが再発しフィルタを用いた水質管理を徹底する必要がある。国内でのモデル予測は、オゾンホールに関してはこれまでの予測実験の結果を見直した。モデルに同化するミリ波分光計と差分吸収ライダーの準リアルタイムデータが取得されるのを待っている状況である。エアロゾルに関しても基本的な同化モデルはできており実際に計算を行い検証するための観測データを待っている状況である。いずれにしても、2年間の観測装置整備の遅れを取り戻し、同化モデルにつなげるための質の高い実観測データを取得することが喫緊の課題である。
日本の夏頃をめどに、神と水野がアルゼンチンに渡航し、エアロゾルライダーとミリ波分光計の修理・改修を行い、観測を再開させ軌道に乗せる。それが最優先課題である。エアロゾルライダーに関しては、まず、首都ブエノスアイレスの気象局本部に設置してあるライダーの光学系を改造し、まずは単一波長で後方散乱係数と偏光解消度を安定して高精度で測定できるようにする。日本人研究者の下で相手国研究者を徹底的に鍛え上げ、設置調整のポイントを正しく理解させる。次に相手国研究者が取得した技術を持って国内を巡回し、順次他地点のライダーの改修作業を行う。ミリ波分光計に関しては、1月の渡航時に持ち帰った故障部品と制御用PCの交換を行い、さらにポンプとフィルタを含めた水の浄化システムを設置すること数年来の課題であった冷却水チラーの根本的な問題解決をめざす。また、日本からの遠隔管理・制御システムにより、現地エンジニアの負担軽減を図り安定した長期間運用体制を構築する。こうした観測再開に向けた一連の作業を年内に完了させ、年明けから定常的な観測が再開できる体制を整える。データ解析およびモデル関係の研究は順調に進捗している。途中いくつか想定外の結果もでてきたが、それらを新たな課題として原因を追求し、解決することで着実に成果をあげている。あとは同化すべき現地の観測データを取得するところが最大かつ最重要の課題である。また、本課題の重要な最終目標の一つは、観測空白域である南米地域での観測網を充実させ、地球観測衛星の地上検証に貢献することである。この実現のためには、より安定・頑強な観測システムへの移行と持続可能な観測体制の確立が重要であることがコロナ禍により一層浮彫となった。その実現は、本課題終了後10年20年の長期にわたり本観測網が地球環境問題の解決に向けて国際的に果たすべき重要な使命でもあると認識し、精一杯取り組んでいきたい。
2020年度以降、コロナのパンデミックに伴い相手国への渡航が困難な状況が続き、旅費および相手国に設置した観測装置の消耗品の一部が計画通り執行できずに繰越してきた。2022年度に入り、コロナ禍は下火になってきたものの年度前半は状況があまり改善されず、結局現地に渡航できたのは年度終わり近くの1月になってからであり、依然として旅費および消耗品の一部が執行できなかった。これらの経費は次年度に繰越し、当初計画通りの旅費と消耗品に用いて計画の遅れを取り戻したいと考えている。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 6件) 備考 (2件)
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