研究課題
令和2年度は新型コロナウィルス感染拡大の影響により、予定していた野外調査がほとんど実施できなかった。唯一の例外は、オーストラリアの共同研究者に調査器材を送り、トビエイの一種とエビスザメに記録計を取り付けてもらったことである。記録計はタイマーによって切り離され、海面に浮上し、無事に回収することができた。遊泳行動、水温、体温の同時計測データが得られ、現在、解析を進めているところである。また、これまでに取得したヨシキリザメのデータを解析し、論文を執筆した。データによると、サメが海中を潜行するにしたがい、水温は急激に低下した。しかし、大きな体に起因する熱の慣性力により、サメの体温はゆっくりとしか変化しなかった。サメは体が冷え切る前に潜行をやめて浮上を始め、また体が温かくなりすぎる前に浮上をやめて潜行を開始していた。その結果、サメが経験する水温の変化の幅は20℃もあったのに対し、体温の変化の幅はその半分以下の8℃に抑えられていた。こうしたヨシキリザメの体温調節行動は、捕食行動と密接にリンクしていた。サメに取り付けたビデオカメラの映像と遊泳速度の分析により、ヨシキリザメが幅広い深度帯で獲物を捕食したことが示唆された。つまり、ヨシキリザメは深い潜水を繰り返すことで、体温を狭い範囲に収めつつ、同時に獲物を探索していることが明らかになった。また、体温の変化率および水温と体温の差から、ヨシキリザメの体の熱交換係数を計算し、文献に報告されている他の魚類の値と比較した。ヨシキリザメの熱交換係数は体の大きさから予測される値に近く、この種の生理的な体温調整能力は平凡であることが示された。以上の結果により、ヨシキリザメが幅広い水温帯で生活できるのは、効率的な体温調整行動とそれにリンクした捕食行動のためであると結論付けた。以上の内容を論文にまとめ、Journal of Experimental Biology誌に投稿した。
3: やや遅れている
令和2年度は新型コロナウィルス感染拡大の影響により、予定していた野外調査がほとんどできなかったため、「やや遅れている」と判断した。ただし、これまでに取得したデータの解析や論文の執筆は順調に進展している。
新型コロナウィルス感染拡大の状況次第ではあるが、可能な限り野外調査を実施する。これまでに取得したデータの解析と論文の執筆に関しては、予定通り進めていく。複数種の大型回遊魚類から遊泳行動と体温のデータを取得し、それらを分析することによって、それぞれの魚類の水温適応の特徴を明らかにする。
令和2年度は新型コロナウィルス感染拡大の影響により、野外調査がほとんどできなかった。そのため、当初の予定よりも支出が大幅に減った。次年度は、新型コロナウィルス感染拡大の状況次第ではあるが、できる限り野外調査を実施し、大型回遊魚に記録計を取り付けて放流する予定である。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
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