研究課題/領域番号 |
18KK0295
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
倉光 英樹 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (70397165)
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研究分担者 |
佐々木 隆浩 北海道医療大学, 薬学部, 助教 (20714489)
斎藤 健 北海道大学, 保健科学研究院, 特任教授 (40153811)
藏崎 正明 北海道大学, 地球環境科学研究院, 特任准教授 (80161727)
佐澤 和人 富山大学, 学術研究部理学系, 助教 (80727016)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | 多環芳香族炭化水素(PAHs) / 熱帯泥炭火災 / 腐植物質 / 変異原生 / PC12細胞 |
研究実績の概要 |
インドネシア共和国が保有する広大な熱帯泥炭地で頻発している大規模火災は、生態系の破壊、二酸化炭素の排出、越境ヘイズによる健康被害など、様々な環境問題を引き起こしている。本研究では、フィールド調査研究と室内実験研究の両側面から、熱帯泥炭火災に由来する多環芳香族炭化水素(PAHs)の生成機構、および、泥炭中におけるPAHsの残留、微生物代謝産物の生成、水圏への移行挙動を解明し、さらに、PAHsとそれらの誘導体を含む泥炭や水の毒性を複数の試験法により評価することで知見を得ることを目的としている。 本年度は、火災跡地の泥炭中に含まれる溶存有機炭素(DOC)のキャラクタリゼーションと毒性評価を実施した。泥炭火災は、一般的な地表火に加え、地下の泥炭が燃える地中火が起こりやすい傾向がある。これに着目し、酸化的、還元的雰囲気下において異なる温度で加熱することで試料を調製した。その結果、以下の事が明らかになった。①着火温度付近(200℃)で加熱した泥炭からは、未加熱の土壌と比較して約2倍程度のDOCが溶脱する。②異なる雰囲気下で泥炭を加熱しても、DOCの溶脱量は200℃付近で増加する。これは、一般的な森林火災に比べ、地表火および地中火が共に生じる泥炭火災では水溶性有機炭素の損失が大きいことを示唆している。③DOC濃度を一定に調整した各水抽出試料をラット副腎髄質腫由来PC12細胞に暴露した結果、88~95%の生存率を示し、明確な毒性は認められなかった。④酸化的、還元的雰囲気下において200℃で加熱した泥炭の水抽出物は未加熱の泥炭から得た試料と比較して3.8~5.1 倍の抗酸化能を示した。これは、火災によって生じる水溶性有機成分の化学的特性変化はPAHsやその誘導体の移行挙動および毒性に影響を及ぼしていることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ感染症の影響で予定していたサンプリング渡航ができなかったため、令和2年度は令和元年に採取した試料を用いて、申請書に記載の各種実験を実施した。火災跡地のPAHsの定量や実験室での泥炭の加熱試料を作製し、各種分析を進めているが、主要な分析機器であるGC-MSが老朽化により故障したため、研究の進捗に影響を受けた。他の外部資金を宛がうことでGC-MSを復旧させることができたが、時間を弄した。 また、本研究の共同研究者らと現地でのワークショップの開催を企画していたが、これもかなわなかった。遠隔での研究成果発表会を計画したが、現状の研究成果に関する情報交換に留まっている。延長した令和3年度で、当該研究を完結し、取りまとめ、研究成果を両国間で共有するために、実験とワークショップの準備を進めたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度も令和2年度に計画していた渡航が実施できない場合は、申請書に記載した室内実験を進め、当該申請研究内容に沿った成果を得たいと考えている。昨年、泥炭の加熱条件を変えることで、加熱生成物の量と質に大きな違いが得られることが分かり、加熱泥炭試料の作製を進めた。変異原性試験、PC12細胞毒性試験に加え、レサズリンアッセイとMTTアッセイからも泥炭加熱残渣の毒性に関する知見を得たいと考えている。また、同試料の水溶性成分とPAHs及びそれらの誘導体の化学分析も進め、毒性評価で得られた知見と合わせて、熱帯泥炭火災のリスクについて考察する。 インドネシア共和国側の共同研究者、及び、関連する研究者に呼びかけ、当該研究成果を発表する場として、遠隔のワークショップを実施する。本研究で得られた成果から、新たな研究ニーズを現地研究者らと共に見出し、今後の研究に活用したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症の影響で渡航できなかったため。繰越分は、今年度行えなかった実験やサンプリング渡航に引き続き執行予定である。
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