研究課題
モンゴル・エルデネト鉱山は東アジア最大規模の銅・モリブデン鉱山であるが、鉱山活動に伴う環境保全対策は十分ではなく、有害元素による健康影響が懸念されている。モリブデン(Mo)は高濃度では生物に有害であり、近年環境動態や毒性評価が注目されている元素である。微量元素の健康影響の理解にはその溶出性の理解が本質であり、溶出性は土壌・堆積物中の微量元素の化学形態に支配される。本研究は、エルデネト鉱山周辺を流れる河川とその堆積物に着目し、現地調査・堆積物の分析から堆積物中のMoの化学形態を解明し、溶出挙動の予測モデルを構築する。モンゴル・エルデネト市を流れる3つの河川を研究対象とした。3河川の15地点より毎月河川水と河床堆積物の採取を行った。河川水の分析結果より、主要河川であるエルデネト川とハンガル川では、Mo濃度は3月から9月にかけて増加し、9月以降冬に向けて減少することを見出した。なお、夏季では多くの地点でWHOの提示した環境基準値(70ppb)を超えることが明らかとなった。さらに河川水のMo濃度はpHとよい相関を示し、河川pHの増加に伴いMo濃度が増加することを明らかにした。河川堆積物の逐次選択抽出・放射光を用いたX線吸収分光分析より、Moは主に堆積物中に含まれる鉄酸化物に弱い力で吸着していることが明らかとなった。Moの鉄酸化物への吸着は溶液のpHに強く依存し、酸性で吸着するものの、アルカリ性ではほとんど吸着しないことが知られている。夏季のMo濃度の増加は、河川のpHが夏季に増加することにより、鉄酸化物に吸着していたMoが脱離した結果を反映する可能性が高い。また、エルデネト鉱山地域に加えて、南モンゴルバヤンホンゴル県に位置する小規模鉱山活動の影響を受けたことが示唆される湖を対象に、予察的な水質・底質調査を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
当初予定では2018年10月から2019年9月までの河川観測を予定していたが、モンゴルエルデネト地域では冬季(11月~2月)に河川が完全に結氷し、調査が不可能であることが判明した。年間を通じた連続試料を採取するために、採択前の2018年3月より11月まで見切り発車的に観測を行った。その結果、通年にわたる観測データを採取することができ、モリブデン濃度の季節変動データを採取することができた。結果的に当初期待したデータを1年早く得ることができたため、当初の計画以上に進展していると判断した。
初年度で、河川のモリブデン濃度はpHの増加に伴い増加することが明らかとなった。そこで今後は(1)pH増加に伴うモリブデン濃度増加メカニズムの解明、および、(2)エルデネト地域の河川においてpHが季節間変動する要因の解明を行う。前者は採取した試料のMoの存在状態を放射光分析により検討するとともに、制御された室内実験により、鉱物によるMo吸着・脱離挙動を詳細に検討する。後者はエルデネト地域においてpHおよびモリブデン濃度が高まる夏季において、集中的な水質観測を行う。また、2019年2月に採取したモンゴル南部湖沼の氷および堆積物試料に対し、モリブデン・ヒ素・ウラン濃度を測定するとともに、放射光分析によりそれらの存在状態を明らかにする。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
地形
巻: 40 ページ: 5-20
MINERALS
巻: 8 ページ: 288
doi:10.3390/min8070288
土壌の物理性
巻: 138 ページ: 13-20