研究分担者 |
田上 瑠美 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 助教 (60767226)
高橋 真 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (30370266)
鈴木 剛 国立研究開発法人国立環境研究所, 資源循環・廃棄物研究センター, 主任研究員 (70414373)
松神 秀徳 国立研究開発法人国立環境研究所, 資源循環・廃棄物研究センター, 主任研究員 (10639040)
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研究実績の概要 |
本年度は、昨年度ベトナムの現地調査で入手した電気・電子機器廃棄物(e-waste)および使用済み自動車(End-of-Life Vehicles: ELV)処理場の室内ダストに適用可能なリン酸エステル難燃剤(PFRs)の分析法を確立し、汚染実態と両処理場のプロファイル解析を実施した。対象としたPFRsは、TNBP, TPEP, TPHP, o-TMPP, m-TMPP, p-TMPP, IPPP, TBOEP, TCEP, TCIPP, TDCIPPの11種であり、GC-MS/MSのフルスキャンモードで得られたマススペクトルデータから各物質固有のプレカーサーイオンを、そしてプロダクトイオンスキャンモードの測定から定量イオンおよび定性イオンを選定し、MRM測定条件を最適化した。ダスト中に存在する夾雑物質の除去にはENVI-Carbカートリッジを用い、内部標準物質を用いた回収試験の結果、良好な回収率が得られた。e-wasteおよびELV処理場の室内ダストを分析した結果、TPHP, TPEP, EHDPP, TCEP, TDCIPPが両解体処理場から100%で検出され、不適切処理に伴い作業環境へ放出されていることが判明した。また、ハノイ市を流れるNhue riverで採取した河川水中のPPCPs分析を継続して進め、水生生物に対する予測無影響濃度(PNEC)を基に生態影響評価をおこなった。その結果、トリクロサンとビスフェノール類でハザード比が1を超過する検体が存在し、河川に生息している水生生物への影響が懸念された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在まで、現地研究者との共同研究を通じてe-wasteおよびELVに含まれる難燃剤等の有害化学物質による作業環境汚染、そして生活・工業排水に混入しているPPCPsの河川水汚染に関する研究は計画通りに進んでいる。本年度は、昨年度分析した臭素系難燃剤の代替物質として近年使用量の増加が指摘されているPFRsを対象に、室内ダストに適用可能な高精度分析法を立ち上げ、e-wasteおよびELV処理場の作業環境におけるPFRs汚染の実態を明らかにした。両処理場でTPHP, TPEP, EHDPP, TCEP, TDCIPPによる汚染が共通して確認されたが、TMPPはELVダストでのみ検出され、TMPPが難燃剤や可塑剤に加えガソリン添加剤等に使用されていることから、ELVオイル由来の影響であることが示唆された。昨年度に分析したハロゲン系難燃剤のダスト中濃度はELVよりe-wasteで明らかに高値であったことを考慮すると、ELV処理場では不適切な作業により一部のPFRsが相当量環境中へ放出されている可能性があり、重要な知見を得ることができた。また本年度は、Nhue riverで採取した河川水中のPPCPs濃度と水生生物に対する予測無影響濃度(PNEC)を比較することで、トリクロサンとビスフェノール類の生態影響リスクが高いことを提示できたことに加え、魚類の組織に適用可能なPPCPs分析法の確立にも成功している。 しかしながら、COVID-19の影響で本年度は現地調査が実施できておらず、e-waste・ELV処理施設の作業者と同地域に住む非作業者に対する有害化学物質の曝露実態およびリスク評価の研究調査について現地共同研究者と保健所関係者との打ち合わせも実施することができなかった。
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