研究課題/領域番号 |
18KK0304
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
平田 拓 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (60250958)
|
研究分担者 |
市川 和洋 長崎国際大学, 薬学部, 教授 (10271115)
榎本 彩乃 長崎国際大学, 薬学部, 助教 (30826186)
|
研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
|
キーワード | pH / レドックス / 酸素 / 電子スピン共鳴 / 核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
実験用小動物の複数の生理学的情報(pH、酸素分圧、酸化還元状態、グルコースの取り込み等)を可視化するマルチファンクション・イメージングの実現を目指して、電子スピン共鳴(ESR)イメージングとオーバーハウザーMRI(OMRI)の技術開発を進めた。 ESRによるpHおよび酸素イメージングを高感度化するために、マルチハーモニック受信システムを開発した。連続波ESR分光装置を改良し、高次の微分スペクトルを受信することに成功した。ESR信号の離散的サンプリングと磁場変調信号を同期させ、0.1sのスペクトル計測時間に524,288点のデータを取得した。データ512点毎に磁場変調周波数81.92 kHzの基本波と高調波を連続的に検出し、n次微分スペクトルを取得するシステムを実現した。15N標識PD-Temponeプローブ分子を用いて、1次から15次微分ESRスペクトルの同時検出に成功した。また、pH感受性プローブ分子dR-SGおよびウエストバージニア大学で開発した酸素/pH/リン酸に感受性のあるプローブ分子を用いたマルチハーモニック受信の高感度化実験を行った。また、圧縮センシングと呼ばれる手法をESRイメージングに適用し、短寿命のプローブ分子に対応できる酸化還元(redox)状態を反映したイメージング法を開発した。 OMRIによるマルチイメージング実現のため、共振周波数の制御が可能な共振器に対応する周波数切替装置を開発した。開発した装置により、送信周波数の切替および共振器の共振周波数制御を可能にした。開発した切替装置を用いて、ESR励起周波数を交互に切り替えながらフーリエ周波数空間のデータを取得することにより、2つのESR励起周波数による2種類のOMRI画像を同時に取得することに成功した。この成果は、複数の情報を同時に可視化する本プロジェクトにとって有用な前進である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
米国ウエストバージニア大学のV. V. Khramtsov教授と連携して複数の生理学的情報を取得するマルチファンクション・イメージングを開発する課題を実施している。新型コロナウイルス感染症の世界的拡大に伴い、ウエストバージニア大学を訪問して実験を行う予定は延期された。そのため、日本国内で北海道大学と長崎国際大学のチームが技術開発を進めた。3年目となる2020年度は、北海道大学においてESRイメージングの検出感度を向上させるマルチハーモニック受信システムの開発および腫瘍組織の酸化還元(redox)状態を可視化するイメージング手法の開発を行った。圧縮センシングと呼ばれる手法により高速化を実現し、信号の寿命が1分程度と短い15N標識PD-Temponeスピンプローブを用いた三次元redoxマッピングをESRイメージングで初めて実現した(K. Kimura et al., Antioxidants & Redox Signaling, 2021)。 長崎国際大学において、OMRIにより複数情報を同時にイメージングする共振器および制御技術、イメージング手法の開発を行った。水溶液を用いた実験において、二つのESR励起周波数(二種類のラジカル分子に対応)を用いるイメージング実験に成功した。 ウエストバージニア大学で実験を行えない点は当初の計画と異なるが、日本国内で実施可能な研究は北海道大学および長崎国際大学において進めることができた。今後、米国への渡航が難しい状態が続いたとしても、日本国内で開発した装置をウエストバージニア大学に送るなどして、現地での性能試験・実験を実施する予定である。 以上の状況から、米国への渡航ができないことによる研究計画の変更は生じているものの、各チームで実施可能な研究に進展が見られることから「概ね順調」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は本課題の最終年度となるため、当初計画した腫瘍モデルマウスのマルチファンクション・イメージング実験を実施し、以下の問いに答えを与えるための研究に取り組む。 (1)腫瘍組織の代謝変化が引き起こすpHの低下は、グルコースの取り込みと相関するのか? (2)腫瘍の低酸素状態は、酸化還元(redox)状態とどのように連動しているのか? これまで開発したESRおよびOMRIのイメージング技術を用いて、マウスに作製する腫瘍組織から複数の情報を可視化し、上の問いに関連する実験データを取得する。 また、2021年度も新型コロナ感染症の影響により米国への渡航が困難な状況にあるため、米国へ送付することが可能な電子回路や装置の一部はウエストバージニア大学において試験を行うことを依頼する予定である。日本国内で実施することが可能な実験は、北海道大学および長崎国際大学で実施し、研究成果を取りまとめる予定である。さらに、腫瘍のマルチファンクション・イメージングの有用性を示すために、得られた知見はウエストバージニア大学のグループと共著で専門学術誌に発表することを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により2020年度の米国への渡航が困難であったため、ウエストバージニア大学を訪問して実験を行うことができなかった。そのため、当初予定していた渡航に関わる経費が予定通り執行できなかった。また、投稿中の論文の査読結果が判明せず、論文掲載に関わるオープンアクセス経費を年度内に執行できなかった。 今後の使用計画として、論文に関わる経費は掲載が決定次第、執行する予定である。また、米国への渡航に関わる経費は引き続き執行が難しいため、イメージング技術の改良や動物実験のために経費として充当することを計画している。
|