本研究では、コンピュータグラフィックスによる写実的な画像の生成に使われる、光伝搬シミュレーションを行うための枠組みの発展に取り組んだ。特に、光の強度の計算結果が区分的に滑らかになる事を利用した、光の強度の勾配を用いた勾配空間での計算方法について、基課題の研究成果をもとに研究を行った。 まず、基課題で得られていた、マルコフ連鎖モンテカルロ法と勾配空間での計算についてのつながりを研究成果としてまとめ、学術論文として投稿を行い、Eurographics 2020へ採択された。この研究成果では、勾配空間の対数とマルコフ連鎖モンテカルロ法を組み合わせることで、マルコフ連鎖モンテカルロ法の根本的な欠点である、計算精度が空間的に不均一になる問題を、世界で初めて解決した。開発した手法を光伝搬シミュレーションに適用し、従来手法にくらべて、画像のそれぞれのピクセルの計算精度を均一にできる事を示した。 この知見を、対数以外に一般化したものを発見する事も当初の目的であったが、勾配に相当する値の計算量と、それによって得られた誤差の減少のバランスを取るのが困難であるという知見が得られ、その問題に取り組んでいる。また、勾配の値の高速かつ安定な計算についても、密度推定法を用いた基本的な数値実験が終了しているが、発表に値する成果に到達するには時間がかかる見込みである。これら方向での研究は、本事業で強化した国際共同研究の体制を維持しながら継続する。 また、当初の研究計画には含まれていなかったが、共同研究先のMcGill Universityの研究者・学生との共同研究を複数実施した。特に、マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いた光伝搬シミュレーションに関する研究と、画像に関する深層学習の新たな枠組みついて研究を行った。その研究成果は、それぞれACM TOGおよびWACVに投稿し、採択された。
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