本研究では利用する大気化学輸送モデル(CMAQ)と計算機の性能の制約から計算領域をアジア,北アメリカ,南アメリカ,欧州,南アフリカ,オセアニアの6領域に区分している。そのため,G20単独参加国の19カ国の消費により国際貿易を通じて異なる領域内で発生するPM2.5による人健康影響の評価は可能であるが,発生したPM2.5の領域を超えてもたらす影響を算定できない。本年度は,対象とする19ヵ国の消費により発生したPM2.5の 各領域の東西南北境界を構成するグリッドにおける濃度を検証し,領域を超えた影響の大きさを確認した。その結果,例えば、アジア領域の境界では,中国の消費が境界グリッドのPM2.5濃度に与える最大の寄与は26%(グリッドの濃度は約5 micro gram/m3)であり,4境界に位置する全てのグリッドを平均すると,中国の消費が寄与する平均濃度は0.14 micro gram/m3であった。領域外への影響は皆無ではないものの,領域内の影響に比べれば十分に小さいことを確認した。加えて,19ヵ国の生産基準によるPM2.5に起因する早期死亡者数を推計し,消費基準との比較を行なった。中国,インド,インドネシア等は消費基準より生産基準による早期死亡者が多いが,米国,日本,オーストラリア等では,消費基準が生産基準を上回りG20内で消費者責任の相違が明確となった。さらに,2050年と2100年の世界人口動態変化を踏まえた早期死亡者を推計した。先進国ではPM 2.5による死亡リスクの高い高齢層の増加により,人口減であっても早期死亡者が増えると推計され,アフリカ諸国では全体的な人口増が早期死亡者を押し上げた。
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