巨大な人口を抱えた地球全体で進む急速な近代化と豊かな自然環境の保全との調和は、正解のないきわめて困難な問題である。稲作文化を基層においたモンスーンアジア地域には、稲作という生業を基本として多様な「遊び仕事(マイナー・サブシステンス)」が展開されており、そこに内包される徹底した循環思想、持続可能な生物資源利用の知恵や技術は、世界的な人口問題・環境問題の解決へのひとつの糸口となりうる。本研究では、モンスーンアジア地域で営まれている「遊び仕事」の豊かな世界を明らかにし、そこに内包されている在来知をあぶりだすことによって「遊び仕事」の再評価をめざす。2023年3月から2024年3月までの1年間ラオス人民民主共和国に滞在し、ビエンチャン県およびシェンクワン県を主要なフィールドとして、①市場における有用動植物資源の調査、②「遊び仕事」に関するフィールド調査に取り組んだ。①については、野生動植物が多く取り引きされている複数の市場を定期的に訪れ、販売されている食用昆虫類に関するデータを収集した。さらに食用昆虫類の産地を訪れて、いつ、どこで、どのようにして採集されているのか、さらに、どのように調理・食利用されているのかについて参与観察、聞き取り調査を行なった。その結果、ラオスでは雨季と乾季という季節の移ろいに適応しながら複合的な生業が営まれており、そのリズムのなかで食用昆虫が採集・利用されていることが明らかになった。ラオスではこれまで計9目37科146種の食用昆虫が記録されていたが、今回の調査により少なくとも12目51科228種の昆虫類が食利用されていることが確認された。②については、トウヨウミツバチに着目して、その養蜂に関するフィールド調査を展開した。ラオスには日本以上に多様な養蜂スタイルが存在しており、日本の伝統養蜂との共通点・相違点やそこに内包される多様な在来知が確認された。
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