研究実績の概要 |
本共同研究は、紛争・衝突にさらされ、政治的境界の設定・再編にともなって創出される境界地域(ボーダーランド)において、地域住民の経験の記憶化の過程に働く力学を、とくに社会的境界ともいえるジェンダーや人種の機能を重視して検討すること、およびこれを踏まえて、記憶のトランスナショナルな歴史の再構築に関する理論研究を行うことを目的とする。この目的は、海外共同研究者2名との協働により、ヨーロッパおよびアジアにおける、戦争によって空間的・社会的境界が創出されるプロセスやその表象、住民への作用を比較研究して進められる。 2019年度は、第一に、政治的境界の設定以前には共有されていた経験が、事後に分断をともなって想起されるという問題を、境界の付与する「他者化」の権力としてとらえる議論(Van Houtum et al., B/ordering Space [New York: Ashgate, 2005])を参考として、本共同研究の理論的基盤の研究を進めた。第二に、とりわけそこで働く人種主義とジェンダーの言説的な力について検討した(イタリア近現代史研究会報告「第一次世界大戦における戦時性暴力と人種主義言説」2019年11月、国際ワークショップGender and Criticism: Japan in the Trans-Pacific (California State University, Northridge, the United States) およびReproductive (Non) Freedom (Ca' Foscari University of Venice, Italy)における研究報告など)。海外の共同研究者とは、主にメール等を通じた情報交換を行った。
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