研究実績の概要 |
本共同研究は、紛争・衝突にさらされ、政治的境界の設定・再編にともなって創出される境界地域(ボーダーランド)において、地域住民の経験の記憶化の過程に働く力学を、とくに社会的境界ともいえるジェンダーや人種の機能を重視して検討すること、およびこれを踏まえて、記憶のトランスナショナルな歴史の再構築に関する理論研究を行うことを目的とする。この目的は、海外共同研究者2名との協働により、ヨーロッパおよびアジアにおける、戦争によって空間的・社会的境界が創出されるプロセスやその表象、住民への作用を比較研究して進められる。 2020年度は、オランダに渡航し、ライデン大学において共同研究を実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行によりまったく渡航が不可能であったため、国内で研究を進めた。第一に、危機的状況という点において本研究課題と関連するともいえるコロナクライシスに社会がどのように対応したかをジェンダー視点からとらえる作業を行ない、歴史的経緯の及ぼす影響の大きさが確認できた(「フェミニズム/再生産/コモンズ--シルヴィア・フェデリーチの議論によせて」『福音と世界』75-7、「パンデミックとジェンダー分業--共同体の公正な存続のために」歴史学研究会編『コロナの時代の歴史学』など)。第二に、共同研究者であるMaja Vodopivecとの共同研究の成果の一部を発表した(Introduction: War, Violence and Gender in a Global Perspective: Memories and Representations in the Cases of the Algerian War, South Korean ‘Comfort Women’ and the Bosnian ‘Mothers of Srebrenica’『クァドランテ』23号)。
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