研究課題/領域番号 |
18KK0337
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
松尾 瑞穂 国立民族学博物館, 超域フィールド科学研究部, 准教授 (80583608)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2023
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キーワード | サブスタンス / 人種 / 遺伝子 / 混血 / インド / スリランカ / 生殖医療 |
研究実績の概要 |
本研究は、インドにおける集団カテゴリーの構築と同定に用いられる血と遺伝子の論理について検討することを通して、集団の差異の「自然化」や「実体化」にサブスタンスが作用するメカニズムを解明することを目的とする。サブスタンスとは、親子や家族、集団の間で共有し、継承されるとみなされる身体構成物質である。本研究が対象とするのは、インドにおける人種や民族、カーストといった集団の差異化において、 血と遺伝子をめぐる言説が、科学的知識として歴史的に生成され、流通し、機能している様態である。歴史、政治、ナショナリズムなどの絡み合いを解きほぐし、社会集団の範疇化や他者との差異化について検討を行うものである。 今年度は、これまで新型コロナ感染症によるインドのロックダウンも解除され、医療状況にも落ち着きが見られてきたことから、これまで延期していたインド調査を実施することが出来た。具体的には、インド・サヴィトリバーイー・フレー・プネー大学を受け入れ機関としてインド・プネーに5か月滞在し、19世紀以降の人種概念の構築に関する文献資料収集と、プネーにおけるバラモン・カーストコミュニティの調査、農村地域での生殖実践に関する調査などを行った。また、タブー視されがちな女性の経血を新たな側面から捉えるために、アッサム州やケーララ州の女神寺院などを訪問し、予備調査を行った。 また、本課題に関連する研究をまとめ、共編論集Life, Death and Illness in Contemporary South Asia(Routledge, 2023)および編著『サブスタンスの人類学―身体・自然・つながりのリアリティ』(ナカニシヤ出版、2023)を刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、新型コロナウィルス感染症に伴う渡航制限が緩和されたため、予定していた通り、インド調査をようやく実施することが出来た。滞在中は、サヴィトリバーイー・フレー・プネー大学で共同研究者と研究課題についての議論を深めるとともに、同大学では特別講義などの研究交流を行った。また、12月にはインド工科大学ハイデラバード校で、Prof. Anindita Majumdarと共催で本科研のシンポジウムを開催し、イギリス、日本、インドから研究者を招聘してReproductive Entanglements and Politics of Careをテーマに議論を行うことが出来た。また、2023年1月にはプネー大学で開催された国際マハーラーシュトラ学会の研究大会にて研究報告を行った。このように、調査データの収集のみならず、インド研究者のネットワークの構築と強化を行うことができ、今後の研究にとってもきわめて有益であった。 また、これまで海外滞在を延期していた期間に分析を進めた研究を、編著として論集のかたちで2冊刊行することが出来、成果という点からも特筆すべき進捗が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、イギリス・エジンバラ大学に客員教員として滞在し、本課題の研究を実施する予定であった。しかし、新型コロナ感染症に伴う長期にわたる延期の間に、共同研究者の他国への異動や研究環境の変化があり、難しくなった。その代替策としてオランダ・ライデンでの国際アジア研究所(IIAS)での研究を予定し、客員研究員(Fellow)として、2023年9月から2024年1月まで渡航予定である。オランダでは、オランダ東インド会社(VOC)の南アジアにおける人種政策や婚姻にまつわる規制などについて、ハーグにある文書館で資料収集を行うとともに、滞在先の国際アジア研究所での研究ネットワークの拡大につとめる。 また、インドとスリランカにおける遺伝子に関する認識調査および、白人との混血集団であるアングロ・インディアンとバーガーという民族コミュニティに関する調査に着手するため、インド、スリランカ、また移住先のヨーロッパ(特にバーガーに関しては、父祖の出身地であるオランダ)で調査を実施する予定である。これらの研究をとりまとめ、本年度中に論文や国際学会での発表を通して、研究成果を公開する予定である。
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