本研究では性的市民権(sexual citizenship)の概念に関する先行研究および最新の研究知見を踏まえつつ、本研究が目指してきた「人間の安全保障(humansexurity)」の概念になぞらえた「性の安全保障(sexual security)」という新たな概念の可能性について検討してきた。 一昨年度で共同研究のための渡航は終了したため、昨年度および本年度は共同研究者らとオンラインでやりとりをしながら日本国内で研究を進めてきた。本年度は特に、1年間の在外研究の成果を踏まえて、日本国内および東アジア圏における関連分野の研究者や実務家、市民団体との交流を通して、国際的な性の権利に関する概念と実践の架橋、ならびに、その実践に対して「性の安全保障」という概念を用いることの意義について追究した。これらの研究を通して、欧米諸国や国際的な議論が一定の有用性を持ちうると同時に、特に各国の統治制度や社会制度の現状を踏まえながら、さまざまな理論的・実践的な交渉が行われていることが明らかとなった。特に「性の安全保障」という新しい概念の導入については、人間中心のアプローチというコンセプトそのものは権利保障の進展の基盤となること、しかしながら、各国の法政策や裁判例、社会における人権擁護のプロセスにおいて具体的な活用にはなお、検討すべき事項が多いことも確認できた。具体的には、各国の政治情勢や地域的な政治構造の視点、各国の経済的な状況との関係、各国の人権実現に関する法規範や制度的基盤の現状と位置づけの3点からの検討が有益であるとの推察を得ることができた。
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