本研究は、完全競争市場をはじめとする様々な経済メカニズムが、効率性に加えて分配にどのような影響を与えているのかを評価できる理論的なフレームワークを構築し、経済メカニズムと格差、あるいは取引分布との関係を分析することを目指している。関連して、競争均衡や安定配分といった、これまでの経済学研究における代表的なベンチマークが理論的な予測(事実解明的な分析)や目標とすべき理想(規範的な分析)として相応しく“ない”ような状況の分析も行う。 主要な結果として、同質財の分権的な相対取引市場において起こりうる配分の中で「競争均衡が取引数量を最少化する」ことを明らかにした。具体的には、「取引を行っていないどの参加者たちの間にも、双方が利益を得られるような取引機会が残されていない」ような配分を最小安定的であると定義する。そして、最小安定的な配分の中で、競争均衡における取引数量は常に最も少なくなることを示した。この結果は、一定の条件のもとで異質財市場に拡張できることも示している。また、最小安定性は、パレート効率性を「第三者による金銭移転が不可能である」ような状況へ拡張したPENSという概念と密接な関係があることも明らかにした。以上から、一連の研究成果は、完全競争市場が取引が生み出すパイを最大化する一方でそのパイを受け取る人数を最少化してしまう、という二面性をもった資源配分メカニズムであることを事実解明的(最小安定性)にも、規範的(PENS)にも示唆している。 リスボン大学における申請者の受入研究者であるPais氏とは、参加者たちに最初からパートナーがいるようなマッチング市場に関する理論研究を共同で行った。成果として、配分の望ましさに関する新たな概念を定義し、それらを満たす仕組み(アルゴリズム)を導くことに成功した。
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