研究課題/領域番号 |
18KK0343
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
高槻 泰郎 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (70583798)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2022
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キーワード | 経済史 / 比較制度分析 / 徳川日本 / 清朝中国 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、清朝中国と江戸時代日本における公共投資の実態を比較することを課題に掲げる。灌漑設備や輸送インフラの構築などの公共投資は工業化の前提条件となるため、19世紀以降の両国の差を生んだ要因を解明する上で有効である。具体的には、公共投資が民間の地域リーダーの資本によって担われた清朝中国と、幕府によって指名を受けた外様大名が公共投資を実施した江戸時代日本の比較を行うものである。 2021年度は、共同研究者のSNG Tuan Hwee氏(シンガポール国立大学経済学部)と、定期的にオンラインミーティングを開き、上記研究課題に取り組んだ。 昨年度より、大名の農業生産力と密接に関わる指標として気候条件に関するデータとして、日射量に着目し、国立情報学研究所の市野美夏氏らの協力を得て、全国25地点についておける日射量のデータを1830年代~50年代について取得し、解析を進めてきた。その結果、天保の飢饉と呼ばれる期間(1833年~1838)について、日射量の地域偏差が大きく、特に西南諸藩にとっては、さほどの大きな打撃とはなっていなかった可能性があること、一方で、東日本諸藩では広範囲で日射不足に悩まされ、全国的な米価の高騰に繋がっていたこと、この米価の高騰が西南諸藩による年貢米販売において有利に働いた可能性があることが明らかになった。 これによって熊本藩などは財政状況を好転させていたことが明らかになったが、この蓄積が、アヘン戦争後には公共投資(お手伝普請)ではなく、軍事的投資(軍艦・武器の購入)に繋がったのか否か、について検討することが次なる課題として浮上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究打ち合わせは、オンラインで対応することで、密に行うことができた反面、分析を進めていくなかで、新たに必要になったデータを蒐集するための調査、具体的には各地のアーカイブスを訪問しての史料撮影が、オミクロン株の蔓延という状況下で困難であったことが、大きな障壁となった。 現状、揃っているデータで分析できることはほぼ整理できているものの、論文の投稿というステップに進むために必要なピースが埋まらないまま、時間が経過してしまい、当初計画した通りには進まなかった。
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今後の研究の推進方策 |
国内外の出張が可能になったことを受け、今年度(1年の期間延長を踏まえた最終年度)は、(1)長崎歴史文化博物館、東京大学史料編纂所での史料閲覧・調査、(2)シンガポール国立大学の再訪、(3)共同研究をシンガポール国立大学より神戸大学に招聘、の3点を進め、共同研究の国際査読誌への論文投稿を目指す。 (1)は、幕末において諸大名が長崎で購入した軍事物資の数量、金額を明らかにするための調査である。このデータを構築することができれば、公共事業の削減が軍事投資の増加に繋がったことを実証することができる。(2)は、(3)の下準備としての訪問である。10月から11月の2ヶ月間、共同研究者のSNG氏を神戸大学に招聘し、共同研究の完成を目指す予定であるが(3)、そのために必要なデータ、史料を再度確認し、整理しておくための事前打ち合わせをシンガポールで行う(8月)。 (2)と(3)は職場の長および教授会の承認を得ており、感染状況が大幅に悪化しない限りは実施可能であると考えている。
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