本研究課題では、清朝中国と江戸時代日本における公共投資の実態を比較することを課題に掲げる。2022年度は、共同研究者のSNG Tuan Hwee氏(シンガポール国立大学経済学部)と、定期的にオンラインミーティングを開き、また2022年10月~11月の2ヶ月間、研究代表者の所属機関にSNG氏を招聘し、研究課題に取り組んだ。 2022年度の成果として、幕府の公共土木事業を金銭的に支えた外様大名の経済力を測る指標として、大坂の金融商人である鴻池屋善右衛門の貸付利子率のデータ、および幕末長崎における諸大名による武器・艦船購入のデータを整備し、大名間の経済力比較を可能にするデータセットを構築した点が挙げられる。 研究機関を通じてSNG氏と協力して進めた作業により、江戸幕府の公共土木事業を大名に請け負わせる御手伝普請が減少へと転じたアヘン戦争、ならびに東日本を中心に甚大な被害をもたらした天保の飢饉を重要な契機として、諸大名間に経済格差が生まれたことを示すデータセットが揃うことになった。すなわち、天保飢饉時の日射量データ(農業生産への打撃についての比較)、大坂金融市場における利子率データ(諸大名の資本コスト比較)、長崎での武器・艦船購入データ(諸大名の経済力比較)などである。 今後、これらのデータの解析を進めることにより、公共土木事業を個別領主に依存する形で進めた徳川日本の特質が浮き彫りになるとともに、明治維新という政治過程を経済の視点から捉え直すことが可能になる。 なお、本研究課題にかかる海外渡航期間は規定の180日に満たないが、これは2020年3月末時点で、新型コロナウィルスの感染状況悪化に伴って帰国を余儀なくされたものである。この中断によって国際共同研究自体が妨げられたことはなく、上述の通り、共同研究者を日本に招聘するなど、国際学術ネットワークの構築は果たされている。
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