研究課題/領域番号 |
18KK0352
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
八尾 祥平 上智大学, 総合グローバル学部, 研究員 (90630731)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | パイン産業 / 労働 / 移民 / 台湾人 / 沖縄人 / 日系人 / 華僑華人 |
研究実績の概要 |
今年度は台湾・中央研究院およびハワイ大学を拠点に在外研究を実施する予定であった。しかし、グローバルなコロナ禍が収束せず、海外渡航自体を見合わせざるを得なくなり、予定していた調査を実施することができなかった。 2020年度は在外研究ができないという見込みで、研究体制や研究計画そのものを見直した。こうして検討を重ね、当初の研究計画に関連する下記の研究に着手した。 (1)ハワイの労働運動における製糖業とパイン産業の連関とそのグローバルな影響 沖縄県立図書館や沖縄県公文書館に所蔵される文献や一次資料の収集・分析を実施し、戦前のハワイでの製糖業やパイン産業の連関や、労働運動が与えた影響等の一端を明らかにした。製糖業からパイン業に職場を移動した労働者たちが製糖業でのストの経験をパイン業でも活かしていたことや、製糖業でのストの成功が後のアメリカ本土での排日移民法の制定につながっていたことがわかった。ただし、こうしたストの経験の広がりが、1946年におけるハワイ労働史上で最も有名なエスニシティを越えた連帯の下での大ストライキにつながっていた。このハワイでの経験が、「戦後」の沖縄にどの程度影響したのかを今後の課題として検討したい。 (2)台湾をめぐる国際労働力移動にアメリカが及ぼした影響 昨年度までの調査で、アメリカ植民地時代のフィリピンには沖縄人が移民する一方で、台湾人の移民はほぼ見られないことがわかった。これと関連して、東南アジアの英蘭植民地の状況について先行研究を調べたところ、日清戦争後、台湾が日本の植民地になったことをうけ、これらの地域では日本国籍の台湾人を日本人と同等に扱うのか、それ以前と同様に中国人として差別して扱うのかが問題化していたことが明らかになった。この問題は、日系移民研究や華僑華人研究でマージナル化されて埋もれた、しかし、重要な課題として本研究においても重点的に取り組みたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、コロナ禍により、海外渡航ができないため、研究が計画通りに実施できていない。また、2021年4月現在においても、コロナ禍が収束する兆しが見られないため、しばらくはこの状況が続くと考えられる。現状では、研究計画の見直しや、研究再開への準備を進め、海外の受入研究機関や研究者と緊密に連絡を取り合い、少しでも当初の研究計画どおりに研究を実施できるように準備を整えることに努めたい。 こうしたなか、下記の点で、当初の予想を越える成果を得られた点があったため、進捗状況を遅れているから一段階上げて評価した。 (1)重要な史料の入手 これまで日本国内の研究機関・図書館には所蔵がなく、台湾の国立台湾図書館でのみ閲覧できる貴重な史料が、偶然、古書として市場にでたものを入手できたことで、研究計画の一部が実施できた。その内容の一部としては、戦前の台湾総督府官僚が、1930年代のアメリカでの農業の状況について行った調査で、世界恐慌で落ち込んだと思われたパイン産業の業況がすでにかなり回復していることまで把握していたことが明らかとなった。 (2)ハワイの沖縄人についての史資料調査 ハワイにおける代表的な沖縄知識人・湧川清栄が生前に残した膨大な一次史料から、1920年代前後の時期の沖縄人によるストライキをめぐる状況の一端を明らかにできた。ハワイ労働史の通説では、1946年の大ストライキを準備したのは、1930年代のスト経験にあるとするものがあるものの、湧川の史料からはそこからさらに1920年代のストの成功経験にまでさかのぼれることが示唆された。今後のハワイでの史資料調査を行う上でも重要な発見ができた。
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今後の研究の推進方策 |
まずはコロナ禍の状況を注視して、慎重に在外研究の実施を判断せざるを得ない状況にある。また、滞在期間などについても、状況に応じて短縮することも視野にいれざるを得ない状況にある。さらに、国外の受入研究機関でも海外からの研究者受入には慎重にならざるを得ない状況にあるため、先方とも十分に事前の協議をしたうえで、在外研究を実施したい。 在外研究やフィールドワークが実施できない状況においても、オンラインを利用した調査など、代替手段を積極的に模索したい。たとえば、ハワイ大にある電子化された映像資料の一部は、事前に申請手続きをすれば、国外にいても、オンラインで視聴できるものがあり、1980年代に撮影された沖縄系一世の証言などをみることが可能である。また、フィールドワークが難しい場合でも、可能であれば、オンラインでの聞き取り調査なども実施できるように準備を進めたい。 また、国内では、新型コロナウィルス感染予防対策を徹底した上で、沖縄での史資料調査等に取り組むなど、国内で可能な調査を実施し、研究の遅れをできるだけ少なくするようにも努めたい。
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