研究課題/領域番号 |
18KK0353
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
鈴木 絢女 同志社大学, 法学部, 教授 (60610227)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2022
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キーワード | 財政 / フィリピン政治 / マレーシア政治 / コロナ |
研究実績の概要 |
フィリピンの2000-2020年までの予算データ、マレーシアの1970-2019年までの予算データにもとづき 、両国の予算パターンを抽出する作業を行った。フィリピンの予算データからは、選挙の1-2年前を中心に、個別議員の要請にもとづき配分済み予算を他省庁や他地域に付け替えるいわゆる「議員の予算挿入」を背景とする予算拡大が、とりわけ公共事業省や高速道路省を中心に見られることがわかった。他方で、こうした予算のダイナミクスの背景にある行政府と立法府の取引を新聞報道やインタビューを用いて分析していくと、大統領と上下両院の長、上下両院の長と別議員の2つのレベルでゲームが行われていること、また、その中で予算書では確認しえない行政府による内部留保が、極めて重要な役割を果たしていることなどが明らかになった。 また、マレーシアの予算書(Anggaran Perbelanjaan)の分析からは、首相が財務大臣を兼ねるようになった2000年代以降、財務省と首相府に予算が集中し、急速に割当額・割合が拡大したことが明らかになった。マレーシアの場合は、国家財政からの各議員への予算配分額はあらかじめ決められているが、政府系企業(GLCs)や経済回廊をはじめとする開発プロジェクトなど、特定の議員が直接・間接的に関わる項目への配分が、この2つの省庁において顕著に増加していること、また、選挙資金としての流用されていたことが明らかになった開発公社向け予算が、2010年代以降急速に拡大したことも確認できた。 渡航制限のために、アーカイバルワークができなかった代わりに、コロナ禍における両国の財政出動に関する短いペーパー2本(Suzuki 2021 / 鈴木 2021年7月)、および、行政の長に集中した財政権限がフィリピンとマレーシア両国の外交に与える影響について分析した鈴木(2021年10月)を著した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1-2年目にかけて、(1)予算書のデータベース化・可視化、(2)植民地期や独立前後の予算書の収集・整理・可視化を終了させる予定だったが、(1)については対象期間の短縮を余儀なくされ、(2)については新型コロナウィルスの感染拡大により、断念せざるを得なくなった。これは、滞在国フィリピンにおけるロックダウンによって、予算書のハードコピーが保管されているフィリピン財務省の出入りが叶わなくなったことと、渡航制限のためにワシントンDC、ロンドン、シンガポール、クアラルンプールでのアーカイバル・ワークを全てキャンセルしなければならなかったことによっている。
他方で、かろうじて収集することのできたフィリピンの2000-2020年までの予算データ、マレーシアの1970-2019年までの予算データのデータベース化・可視化は、おおむね完了しており、このデータにもとづき、「研究実績の概要」で述べたいくつかの論文を刊行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に入り、多くの渡航制限が緩和・撤廃されたものの、渡航スケジュールを立てるのが難しい状況は続いている。その意味で、ワシントンDC、ロンドン、シンガポール、クアラルンプールでのアーカイバル・ワークは現実的ではなく、現地RAを雇用しての文書収集に切り替えるのが現実的であろう。
また、コロナ禍において各国の財政分野での振る舞いには大きな違いが見られ、各国の能力の違いや財政支出を導く「財政思想」の違いが顕著になった。現在進行形の現象を扱う難しさはあるが、コロナ禍における各国の財政的な振る舞いを記述することに重点を置くことも、重要な貢献ではないかと考えている。
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