研究課題/領域番号 |
18KK0357
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永吉 希久子 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (50609782)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2022
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キーワード | 移民 / 社会統合 / 地位達成 |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルスの感染拡大により海外渡航ができなくなったため、今年度は日本で引き続き既存データの分析を行い、移民の社会統合の実態を検証した。その結果、以下のことが示された。 第一に、移民の社会経済的地位達成について、雇用形態、職業、賃金の点から分析を行い、日本/海外で蓄積した人的資本が地位達成にもたらす効果がこれら三つの次元で異なり、日本での人的資本の蓄積は全般的に地位達成と正の関連を持つ一方で、海外での人的資本の蓄積との関連は限定的であった。この結果は、諸外国での知見と一致するものであるとともに、高い人的資本をもって日本に来る「高度移民」が必ずしも経済的安定を得られているわけではないことを示唆するものでもある。 第二に、外国人労働者の日本の労働市場での位置を明らかにするため、賃金構造基本統計調査データの分析を行った。在留資格を「専門・技術」「技能実習・特定技能」「永住者」「その他の身分・地位」の4つのグループにわけ、「日本人」との賃金差を、分位点回帰分析を通じて検証したところ、すべての分位点で全在留資格カテゴリの効果は負であり、「専門・技術」の在留資格で滞在する外国人の中で高賃金層であっても、日本人以上に賃金を得ているわけではなかった。他方で、「日本人」との賃金差の多くは人的資本や労働市場上の位置を示す変数(雇用形態、企業規模、産業)によって説明された。つまり、日本人労働者と外国人労働者の賃金差の多くは、外国人労働者の相対的な勤続年数の短さや非正規雇用者の多さ、中小企業や賃金水準の低い産業で働くことによって生じていると考えられる。 上記の結果は、移民の社会統合における移民政策の影響の大きさを示すものであり、人的資本や社会関係資本などミクロレベルの要因の影響に着目する従来の移民の社会統合モデルの妥当性を問い直すものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来今年度アメリカで研究を行う予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大のために海外渡航ができなくなった。このため、アメリカでの移民統合の枠組みの問い直しは2022年度に延期し、日本でしかできない賃金構造基本統計調査の個票データの分析を含め、移民の統合の実態についての分析を進めた。結果としてより代表性の高いデータを用いて、日本全体の賃金分布における移民の位置を示すとともに、それに影響を与える要因を明らかにすることができた。また、2021年度初頭に出版した書籍の合評会を開催することで、これまでの分析の再評価と今後の課題を洗い出しも行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度にはアメリカに渡航することができるようになったため、スタンフォード大学貧困と不平等研究センターを拠点に、これまでの分析結果をもとに、アメリカで発展してきた研究枠組みの限界を示し、新たな理論モデルの構築に向けた検討を行う。この際、労働市場の構造や賃金決定システムの違いに加え、移民制度の影響に着目する予定である。
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