本研究の課題は、20世紀初頭の船舶の航行記録を新聞資料、保険会社、そして港湾資料を通じて再現することにより、近代世界貿易の構造を空間的に理解するデータベースを作成することである。今年度は、①英国での資料調査を行うための準備、②調整で得られた知見の公表、③受け入れ研究機関との調整を行った。 第1に、資料調査の準備についてである。本研究はこれまでにアジア・太平洋地域の主要な港を中心に、1913年の船舶の航行記録を収集し、これをデータベースにしてきた。それを欧米圏を含めた世界規模に拡大するためには、ロイズ資料に代表されるロンドンに集積された海運資料にアクセスする必要がある。その資料群の一端についてはTIMES紙に掲載されている。したがって、英国での本調査の前に、TIMES紙のオンライン閲覧サービスを利用して情報を収集し、それを整理する作業を実施した。 第2に、この整理を通じた得られた知見の一部を論文で紹介した。『東アジア経済史』の叙述に活用したほか、『社会経済史学』で公表した貿易研究にもその知見はいかされている。また、データベースについては、京都大学そして東京大学で開催されたワークショップでも報告を行い、有益なアドバイス・コメントをいただいた。 第3に、受け入れ研究機関との調整である。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の共同研究者と連絡を密にし、現地での受け入れの体制を整えていただき、次年度以降に予定している渡航に必要な招聘状を発行してもらった。
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