研究課題/領域番号 |
18KK0363
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木越 義則 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (00708919)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | 海運 / 貿易 / 船舶 / 港湾 / 傭船市場 / 定期郵船 / 不定期船 / GIS |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近代世界の海運の航行記録を新聞資料に基づいて収集することで、データベースを作成し、海運ネットワークの構造から近代世界経済の構造の解明に寄与することである。このデータベースを作成するためには、近代世界海運の中心であった英国における資料収集と、そこで培われてきた世界海運研究の知見について、国際的な視野から共同研究を行うことが不可欠である。したがって、本科研は、英国のロンドン・スクール・エコノミクス(LSE)での国際共同研究を企図した。 2020年度中に渡英予定であったが、新型コロナの流行によりその実施が困難になったため、渡航を延期した。予定の変更に伴い国内で実施できる研究を以下の3点にわたり実施した。 ①データ整理:英国の代表的な海運保険会社であるロイズ社が発行した船舶の航行記録のうち、定期郵船の部分について1913年を中心にデータの整理を実施した。 ②資料収集:歴史的な新聞資料を公開しているサービスを利用することで、1913年の航行記録を補充した。具体的には、オーストラリアの国立図書館が公開しているサービスを利用し、インド洋とオセアニアにおける航行資料を収集した。また、フランスで提供されている新聞データベースを利用し、マルセイユ港の出入港記録の収集を開始した。 ③アジア・太平洋の1913年における海運ネットワークを分析し、国際海運と国内海運は独立に発展したのではなく、国内海運の発展を基礎に国際海運の拡張があった点をデータで示した。この分析の成果の一部は、3回のワークショップで発表を行うことで、参加した研究者から有益なコメントを得た。それらを踏まえて「近代世界海運とアジア貿易:1913年における海運データベースの構築と分析」と題する論文を執筆し、京都大学人文科学研究所の出版物で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナのウイルスの影響により海外での国際共同研究の実質的な遂行ができない状態となっている。とりわけ本研究では英国における海運資料の収集が不可欠であるため、データベースの中心となるデータの確定に大きく支障をきたしている。 現状ではデータベースの内容は次のような状況に留まっている。これまでに収集できたデータは主として東アジア、東南アジア、オセアニア、そして北米西海岸における船舶の航行記録である。そのほかに2020年度中の作業を通じて、世界の主要な定期郵船会社約30社の大型船舶の航行記録を網羅することができている。以上のデータによって、アジア・太平洋地域の分析には十分に対応できるものとなっている。 しかし、これを世界海運の中心であった欧州および大西洋地域と比較するにはまだ不十分である。とりわけ北欧州と地中海、さらには西アフリカ地域のデータは、十分にデータベースの中に組み込むことができていない。この問題を解決するためには、英国において、欧州、とりわけ西ヨーロッパ諸国の海運データについて収集することが不可欠である。 また、新聞資料では船舶の正確な登記情報が欠落しているため、上記と並行して船舶登記の資料について調査する必要がある。幸い、英国と米国についての登記情報は、インターネットで公開されているため、海外での資料調査という制約はない。しかし、それ以外の諸国についての情報は、英国で収集されながら、いまだデジタル公開されていない資料の閲覧が不可欠である。 以上のような問題のため、世界全体をバランスよく分析することできるだけの情報取得の進捗が大幅に遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナのウイルスの状況を注視しつつ、できれば今年度中に英国での研究を実現できるよう関係部局と受け入れ機関との情報交換を密にしつつ準備をすすめる。それと並行して、国内で進めることができる既存データの校正とオンラインでの資料収集も進める。今年度中の渡航が難しい場合は、課題の期間延長の申請も視野に入れる。 国内での研究準備としては、オンラインで公開されている1913年のマルセイユ港の資料に焦点を当てることで、地中海における海運の航行記録のデータベースの充実化をはかる。また、これまで入力したデータの校正を進め、データベースの中における不整合の修正を極力進めることで、データベースの信頼性の向上に努める。 データベースの中では出入港した港が約2600港登録されている。この航行ルートについては、現在のところ直線的な距離として記録されているにすぎない。つまり現在分析できる定量的なデータは、2港間で移動した船舶の隻数とその積載容量である。したがって、今後は、航行ルートの距離について、GISと航行ルート検索サービスを活用することで、データベースに情報を追加する。そして、船舶の積載容量と距離に基づいて、港間の貨物移動に要したエネルギーの推定にまで拡張することを企図する。 以上のように、新型コロナの推移を注視しつつ、データベースの拡充とそのデータを活用する分析メソッドの開発に力を注ぐことで、渡航が不可能な期間を有効に利用する。そして、渡航が実現した場合は、資料収集を重点的に行うものとする。
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