研究課題/領域番号 |
18KK0363
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木越 義則 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (00708919)
|
研究期間 (年度) |
2019 – 2023
|
キーワード | 海運 / アジア / 船舶 / エネルギー / データベース / 貿易 / 石炭 |
研究実績の概要 |
今年度は,外国機関に渡航し,海外共同研究者との協力に基づいて,交付申請に基づいた研究を実施した。本科研の研究目的は,近代世界海運のデータベースを作成し,アジア太平洋地域が世界物流の中で占める位置を解明することである。そのために,海運の歴史資料が集積している英国での資料調査を行った。具体的には,船舶の航行記録を収集しているロイズ社の資料を,ロンドンの国立海洋博物館,ギルドホール図書館で収集し,その資料に基づいて,既存のデータベースを拡張する作業を行った。さらに,LSEの図書館,大英図書館,そして英国国立公文書館にて,世界各国政府が作成した海運統計の収集を行った。これらの作業により,国内海運と国際海運の両方を統合した形での世界海運のデータベースを作成した。 このデータベースから,20世紀初頭におけるアジアの海運量を推計し,さらにアジアの海運量の規模を規定する要因について分析を行い,アジア域内ではエネルギーと食糧関連の貨物の移動量が大きいことを確定した。つまり,19世紀半ばにはじまる交通革命は,大陸をまたぐ国際海運を発展させると同時に,それ以上に域内の海運量の規模を拡張させた。以上の事実は,既存のアジア貿易史研究の成果と符合するものである。 以上の資料調査に基づいた分析結果は,渡航先での海外共同研究者と議論を行い,それを国際的に発信するための予備的な研究レポートの作成を行った。さらに,LSEに所属する研究者たちと当該研究についての情報共有を行い,またLSEで開催されたワークショップに参加することで,国際的な人的ネットワークの構築に努めた。以上の研究活動を通じて培った知見の一部は,2022年7月に開催された世界経済史会議で研究報告を行い,さらに2023年3月にLSEで開催されたセミナーでその総合的成果を公表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
渡航先で,データベースの作成に必要となる資料の主要部分を獲得することができ,それに基づいて分析可能なデータセットを整理することができた。特に,船舶一隻単位のミクロ的な資料と,政府単位のマクロ的な統計の両面から,海運統計の全体像を把握することができた。また,研究成果の一部を国際学会(世界経済史会議)で公表することができたこと,そして海外共同研究者との連携を通じて,成果を渡航機関のセミナーで報告したことで,研究を国際的に認知してもらうための基盤を培うことができた。これらの発表を通じて,海運統計を利用することで,世界経済史の中のアジアの位置を分析するための対象として,石炭,穀物の輸送と用船市場について論究する必要があることを確認できた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は海外渡航先のセミナーでまとめた研究成果を論文として執筆し,国際的に発信することを目標とする。論文の執筆に当たっては,海外共同研究者との連絡を密にし,国際共同研究のさらなる発展を目指す。特に,セミナーの準備と発表の中で,海外の研究者たちから受けた改善案を軸に,論文の完成度を高める。また,アジアの石炭の海上輸送について,統計だけでなく,その輸送主体にも着目した上で,それらを国際的に比較することで,アジアの用船市場の特徴を明らかにする。さらに,海上輸送における化石燃料の消費量を計算することを目指す。これらの実証作業により,近代におけるアジアの海上輸送の地域的,時代的な特徴を解明することを目標とする。
|