研究課題/領域番号 |
18KK0365
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
多田 光宏 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (20632714)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | 言語 / ナショナリズム / 現象学的社会学 / 知識社会学 / ハプスブルク・オーストリア / ウィーン・ユダヤ人 / 移民 / 同化 |
研究実績の概要 |
2019年度途中より、ドイツ・ベルリン工科大の海外共同研究者フーバート・クノーブラオホ教授のもとに滞在し、アルフレート・シュッツの言語観について集中的な研究を実施した。その間、ドイツ国立図書館、ベルリン・フンボルト大学図書館、ベルリン自由大学図書館、ベルリン工科大学図書館などで、たとえばマイクロフィルムに収められた19~20世紀にかけてのハプスブルク帝国の言語統計資料や、本研究課題に関連する国際条約条文や法学論文なども収集して分析した。さらに、ドイツ社会学会・知識社会学部会会議(於コブレンツ大)などにも参加し、とくにクノーブラオホ教授の音頭により復活される言語関連テーマ部会にて情報収集もおこなった。また、同教授がベルリン工科大にて主宰する一般社会学・研究ワークショップにおいて、それまでの研究成果の一部について、"Alfred Schuetz' Sprachsicht und ihr sozialer Hintergrund: Die Lebenswelttheorie des juedischen Soziologen auf ihn selbst angewendet(アルフレート・シュッツの言語観とその社会背景ーーそのユダヤ人社会学者の生活世界理論を自己適用して)" と題する発表もおこなっている(ドイツ語)。現在はこの内容をさらに敷衍し、英語にて論文をまとめている最中である。得られた成果として現在言えることは、シュッツの社会学的モチーフのなかに、とりわけ多民族国家ハプスブルク帝国当時のウィーンにおけるユダヤ人の立場が、表向き分かる以上に色濃く反映されている可能性である。シュッツの言語観もこれに準じており、方法論的ナショナリズムというよりは、むしろ国民国家以前の市民的言語観と言えるものであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元(2019)年度は、渡航先のドイツで椎間板ヘルニアを突如患い、そのあいだ数ヶ月、研究が思うようにはかどらないなどし、さらにそれに回復の兆しが見えた年度末2月ごろからは、世界的なコロナウィルスのパンデミックにより、滞在先のドイツで混乱の最中に置かれた挙げ句、並行して日本の所属大学での新学期対応に追われるなど、予想外の数多くの事態に見舞われた。しかしにもかかわらず、計画的な資料収集を進め、研究滞在先でも研究報告を実施して種々の知見を得たり、学会参加して情報収集を努めていたため、本基課題については英語で論文をまとめつつあるところまで漕ぎ着けた。なお本基課題については、おもに英語での研究成果発信を予定している。そのため、シュッツの難解な理論テキストならびに法律や国際条約などに関する歴史的資料を、ドイツ語から独自に英訳せねばならない状況である(既存の英訳書には訳出の仕方に難があったり訳語の選定に一貫性が欠けていたりしてそのまま使用できない。そもそも英訳の文書がないことも珍しくない)。この独自の英訳出には相当の時間がかかり、研究全体を先に進める上では妨げとなっているが、研究成果の国際発信の意義の大きさと比べれば容認されるべきであり、進捗状況はおおむね順調だと言える。
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今後の研究の推進方策 |
上で触れた現下の世界的なコロナウィルスのパンデミックは、本報告書を執筆している令和2(2020)年4月中旬時点では、依然収束する気配がない。所属大学での授業オンライン化や種々の管理運営上の変更などに急遽対応も必要で、当面はそれらの業務に忙殺されることになろう。さらに、本基課題に直接関連する研究発表(査読付き)を予定していた国際学会が開催無期延期になるなど、すでに研究上の具体的な影響が出ている。さらに今夏、ドイツでの再度の研究滞在ならびに学会発表も予定していたが、今後のドイツないしEUの措置によっては、日本からの入国からが事実上不可能なこともありうる。現地での資料収集の計画にも影響が甚大である。よって、本基課題の研究がまったく予定どおりにいかないことが予想される。ただ、幸いにして主たる研究資料は収集済であり、本年度はまずは手元の文献資料等を分析して、受け入れ先とも連絡を取りつつ、自研究室等で地道に成果を論文にまとめるなどする予定である。
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