研究課題/領域番号 |
18KK0365
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
多田 光宏 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (20632714)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | 言語 / ナショナリズム / 現象学的社会学 / 知識社会学 / ハプスブルク・オーストリア / ウィーン・ユダヤ人 / 移民 / 同化 |
研究実績の概要 |
2019年7月より引きつづき2020年6月まで、ドイツ・ベルリン工科大の海外共同研究者フーバート・クノーブラオホ教授のもとに滞在し、アルフレート・シュッツの言語観について集中的な研究を実施した。周知のとおり、2019年度末ごろ(=2020年2月ごろ)からのヨーロッパおよびドイツにおけるコロナウイルス感染の急拡大に伴い、図書館等はすべて閉鎖されて利用ができなくなったが、その直前までにドイツ国立図書館、ベルリン・フンボルト大学図書館、ベルリン自由大学図書館、ベルリン工科大学図書館などで収集したハプスブルク帝国の言語統計資料や、本研究課題に関連する国際条約条文や法学論文などをもとに分析を進めることができた。それにより、シュッツの社会学的モチーフのなかに、とりわけ多民族国家ハプスブルク帝国当時のウィーンにおけるユダヤ人の立場が色濃く反映されている可能性が高いことを確証できた。すなわち、疑似客観科学的な人種類型論に抗する、ナショナル・アイデンティティの主観的選択論であり、シュッツの言語観もこれに準じた、いわば「市民的言語観」(エスノ言語ナショナリズムではなく)と呼べるものであることを明らかにするところまで漕ぎ着けた。なおこの成果は、6月にシュッツ研究者が一堂に集う国際会議にて本テーマで発表する予定であったが(査読付)、コロナ危機により会議自体があえなく中止となった。現状としては、本テーマを英語論文にまとめて国際誌に投稿し、査読結果を待っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のとおり、コロナウィルスのパンデミックが世界的に拡大したことで、2019年度より滞在中のドイツで混乱の最中に置かれた挙げ句、並行して、家庭事情や、さらに日本の所属大学での対応策に追われるなど、予想外の数多くの事態に見舞われた。しかしにもかかわらず、収集済の資料にもとづいて、十分な研究の進展を図ることができたと考える。とくに本研究では、シュッツの難解な理論テキストならびに法律や国際条約などに関する歴史的資料を、ドイツ語から独自に英訳せねばならない状況ではあったが(既存の英訳書には訳出の仕方に難があったり訳語の選定に一貫性が欠けていたりしてそのまま使用できない。そもそも英訳の文書がないことも珍しくない)、本基課題について上述の成果を英語で論文をまとめ、国際誌に投稿するところまで漕ぎ着けることができ、計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上で触れた現下の世界的なコロナウィルスのパンデミックは、本報告書を執筆している令令和3(2021)年4月時点で、コロナパンデミックは依然として完全に収束する気配はない。所属大学での授業や種々の管理運営作業なども膨れあがっており、当面はそれらの業務に忙殺されることになろう。ただ、本基課題に直接関連する研究発表(査読付)をすることが決まっていた昨年6月予定の国際学会が、1年間の延期を経て、2021年6月にオンラインで開催される運びとなった。よって計画最終年度の本年度は、その学会発表、ならびに国際誌での論文掲載を通じて、成果を海外に発信することが最大の課題となるものと考えている。
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