前年度までに引きつづき、アルフレート・シュッツの言語観について、集中的な研究を実施した。ただし、2019年度末ごろ(=2020年2月ごろ)から依然として続くコロナパンデミックにより、海外での資料収集や直接の研究交流などは難しい状況であった。代わりに、その直前までのドイツ滞在期間中に収集したハプスブルク帝国の言語統計資料や、本研究課題に関連する国際条約条文や諸文献などをもとに分析を進めることとなった。また幸いにして、ニューヨークのユダヤ歴史センターがネット上で公開しているシュッツ関連のアーカイブでも、これまでほとんど取り上げられたことのない文書などを発見し、それをもとにシュッツの社会学観に迫ることもできた。またこれらの研究が進展するなかで、本研究テーマが、当時のオーストリア=ハンガリー帝国における他の法学者や政治哲学者らのナショナリティ(民族帰属)観や人種観、ならびに国家観とも関連する、大きな思想史的広がりを持つことであることに気付くに至り、今後のさらなる研究の発展に向けて、そちらについても予備的な研究に着手したところである。シュッツ自身の言語観については、当時の中央ヨーロッパの啓蒙的ユダヤ人(たとえばウィーン・ユダヤ人)が、ホスト社会の文明語(=ドイツ語)の習得を通じて、近代的市民としてみずから当地に同化していったことに重なるものであることを明らかにし、これを2021年6月の国際シュッツ会議で報告した。また招待により、2022年2月にドイツ・パッサウ大学で同テーマをさらに拡張した内容で、講演をおこなった(オンライン)。その内容は英語論文にまとめて国際誌に投稿し、現在査読審査中である。
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